「ハヤブサって世界最速の鳥なの?」
「ハヤブサが都会にも住んでいるって本当?」
「ハヤブサ」は東北新幹線や惑星探査機の名前にも使われ、速さや格好よさが連想されます。
聞きなれた単語ではありますが、ハヤブサがどんな鳥なのかもっと知りたくありませんか?
ハヤブサは、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に掲載されている希少種です。
最後まで読んでいただくと、ハヤブサの特徴・生態・分布域・絶滅危惧種になった理由などについて知ることができますので、ぜひご覧ください。
「ハヤブサ」とは
ハヤブサはハヤブサ目ハヤブサ科に分類され、猛禽類とされてきました。
猛禽類とは、獲物をとるために体を進化させた鳥類のグループで、よく見える目・鋭い爪とくちばし・強い脚をもっています。
猛禽類はタカの仲間とフクロウの仲間に分けられますが、ハヤブサは外見からタカの仲間とされてきました。
しかし近年、DNA分析結果によりハヤブサはインコ・スズメに近い仲間ということに変更されています。
英語ではperegrine falconで、直訳は放浪ハヤブサ。
「放浪」がつくのは、単独でいることが多いからかもしれません。
ここではハヤブサの特徴や生態について説明していきますのでご覧ください。
ハヤブサの特徴
ハヤブサの大きさは、全長(頭の先から尾の先まで)は34~50cm、翼開長(広げた左右の翼の先から先まで)は80~120cm。
メスの方が大きく、カラスより少し小さいくらいとなっています。
ハヤブサの背中は青みをおびた灰黒色で、お腹には横長の斑点があり胸のあたりは丸班模様です。
ハヤブサの目は、瞳孔と光彩の色がほとんど同じ黒色なので目全体が黒一色に見え、目の周りには黄色のアイリングが目立ちます。
目の下に「ハヤブサ髭」といわれる縦長の黒い模様があり、嘴は黄色です。
ハヤブサは急降下で世界最速
ハヤブサが世界最高速度を出せるのは急降下している時で、ギネスブックには時速389kmという記録があります。
ハヤブサが水平に飛ぶ時は時速70~90kmで、ドバトやスズメの時速40~55kmに比べれば速いといえるでしょう。
しかし、ハリオアマツバメが水平飛行する時のギネス記録である時速170kmには遠く及びません。
何といっても、ハヤブサの速さが発揮されるのは急降下時で、獲物を捕らえる時にも急降下という得意技を使っています。
ハヤブサの食べもの
ハヤブサの食べものは主に小鳥です。
上空など高い位置からねらいを定め、翼をすぼめて急降下で襲うことが多く、空中で鷲づかみにするか、蹴り落としてから捕まえて食べます。
都市部にすむハヤブサの獲物はドバトやスズメなどです。
狩りの能力が高いとされるハヤブサですが、成功率は30%程度といわれています。
ハヤブサの営巣地
ハヤブサが営巣するのは切り立った崖の上などで、ヒナや卵を外敵から守ったり、急降下で獲物を狙ったりするのに都合が良い高い場所です。
枝や葉を集めて巣を作るのではなく、平らな場所を見つけてそのまま卵を産みます。
都市部ではビルの屋上などの人工物が崖の岩棚の代わりになり、営巣地としてちょうどよいようです。
営巣地が気に入ると、翌年以降も戻ってきて同じ場所に営巣します。
ハヤブサのライフサイクル
ハヤブサの繁殖期は1年に1度で、日本では3~4月です。
普段は単独行動をしているハヤブサですが繁殖期にはつがいになり、相手の身に何か起こらない限りは何年も同じ相手を選びます。
メスは一度に3~4個の卵を産んで抱卵し、オスはメスのために食料を調達するのが普通です。
卵が1か月ほどでかえると、ヒナの餌も必要になるのでオスは休む暇もありません。
さらに1か月くらいでヒナは親と同じくらいの大きさに育ち、巣から出て自分の翼で飛び、狩りの方法を学んでいきます。
半年後、成長したヒナが自分で獲物を獲れるようになる頃、親によって巣の周りから追い出されてしまうと、もう帰って来ることはありません。
子育てが終わったオスとメスは別々の場所に旅立ち、翌春の繁殖期にまた戻ってきて再びつがいとなります。
ハヤブサの寿命は野生化で12年~16年とのことです。
ハヤブサの分布・生息地
ハヤブサは南極大陸を除く世界に広く分布し、日本国内では北海道から九州まで繁殖が確認されています。
ハヤブサの生息地は、餌である小鳥類と営巣するための断崖や大きな岩が存在する海沿い・山地の川の流域・農耕地などです。
しかし近年では、市街地のドバトやスズメなどを餌として人工物に営巣するなど、敵が少なく安全な都市の環境に適応している例もあります。
ハヤブサと人との共存は喜ばしいことですが、本来ハヤブサが生息してきた豊かな生態系が維持されることの必要性も忘れてはなりません。
ハヤブサが絶滅危惧種になった原因
ハヤブサの個体数は全国的に回復傾向とされていますが、環境省レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)です。
ハヤブサは食物連鎖の頂点にいるので、もともと個体数は多くありません。
食物連鎖とは、植物を食べる虫などを小鳥類が食べ、さらに小鳥類をハヤブサが食べるといった生態系における生きもの同士の関係のことです。
ハヤブサが個体数を維持するには、餌として十分な数の小鳥類が必要で、さらに小鳥類を支えるもっと多くの虫や植物などが存在していなければなりません。
生態系のバランスが一度崩れると、ハヤブサはたちまち餌不足になってしまうリスクを抱えています。
生息環境の変化
ハヤブサが継続的に生息するには、十分な餌を獲れる健全な生態系と安心して繁殖できる営巣場所が必要です。
子育て中に豊富な餌が必要なことはもちろん、メスは繁殖期前に餌を十分とった場合にしか産卵できません。
また、河川開発・海岸開発・道路建設などにより、営巣地そのものが失われる場合もあります。
生息環境の変化は餌や営巣地の喪失につながり、繁殖できないつがいが増える原因の一つです。
有害物質の影響
環境中の有害物質の濃度が低いとしても、食物連鎖で有害物質が濃縮されていくため、生態系のトップにいるハヤブサは影響をまぬがれません。
環境中の有害物質は最初に植物食の虫に取り込まれ、続いて虫を食べる鳥類に移行し、さらに鳥類を餌とするハヤブサの体内へと移ります。
有害物質は、餌と一緒に生物の体内に取り込まれても排出されにくいために、食べた餌の量だけ体内で濃縮が進むのです。
食物連鎖の頂点にいて寿命が長いハヤブサなどの生きものは、体内に有害物質が蓄積し続けてしまいます。
20世紀半ばの米国で、ハヤブサなどの鳥類の急激な減少を引き起こしたのはDDTなどの化学農薬でしたが、農薬の規制が始まると鳥の数は回復していきました。
日本において、有害物質が直接ハヤブサに与える影響を報告したものは見当たりません。
しかし、食物連鎖の頂点にいるハヤブサに有害物質が蓄積しやすいことを考えると、農薬や除草剤などの使用には慎重さが求められます。
人による繁殖妨害
繁殖期のハヤブサは警戒心が強く、抱卵中であっても卵を放棄してしまう例が報告されています。
繁殖妨害につながるレジャー活動の例は以下のとおりです。
- ロッククライミング
- ハンググライダー
- 釣り
- 野鳥の写真撮影
ハヤブサの生息や繁殖が確認されている場所では、繁殖期だけでもレジャー活動を制限するなど配慮が望まれます。
ハヤブサの保護の取り組み
国内に生息する野生のハヤブサは、鳥獣保護法により捕獲が禁止されています。
さらに種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されているため、次のことが禁止されています。
- 捕獲等
- 譲り渡し
- 販売目的の陳列・広告
- 輸出入
開発などでハヤブサの繁殖などに影響が及ぶ場合は、法的規制はありませんが国内希少種ということで配慮されることが期待できます。
ハヤブサはペットとして飼えるの?
野生のハヤブサの捕獲や販売は禁止されていることを述べましたが、鷹匠などに飼われている例もあります。
一般向けに販売されている個体は、外国から輸入された他の種か、飼育下で繁殖されたものなので種の保存法の対象外です。
しかし、世界各地にすむ猛禽類約550種のうち53%で個体数が減っており、18%が絶滅の危機にひんしているとの調査結果があります。
猛禽類の密輸が摘発されるケースもあるので、ペットとして飼う場合は、どんな経緯で輸入・流通しているものか確認し責任をもって入手してください。
ここまで、ハヤブサの特徴・生態・分布域・生息地・絶滅危惧種になった原因などについて、解説してきました。
ハヤブサは豊かで健全な生態系のシンボルであり、ハヤブサを守ることは日本の豊かな自然環境を守ることにつながります。
近年、ハヤブサが生息地を広げているのは嬉しい事実ですが、ハヤブサが生きていける自然環境が少しでも多く維持されることを願ってやみません。