水族館でもよく見かける「ウミガメ」。
ウミガメは海水に適応した爬虫類であり、その殆どが陸上生であったり、淡水の水辺を住処としている爬虫類の中ではイレギュラーな存在です。
常に海水で生活しているのはウミヘビとウミガメ程度でしょう。(ウミイグアナは食事のときにしか海に潜らないため)ウミガメは寒帯を除くほとんどで見られる生物で世界中に全7種が生息しています。
しかし、現在はそのほとんどが絶滅危惧種に指定され、世界各地で数を減らしています。保護活動は盛んに行われているものの、その数が増加に転じたかどうかと言えば、微減といったところでしょう。
今回はウミガメの中でもアオウミガメについて紹介させていただきます。
「アオウミガメ」とは
アオウミガメはウミガメの一種です。ウミガメはウミガメ科とオサガメ科に分けられます。
オサガメは1種類でグループを形成する生物であるため、ウミガメのほとんどがウミガメ科に属します。その中でもアオウミガメは熱帯から亜熱帯を主な生息地としています。
アオウミガメは甲長1mほどのカメで、光沢を帯びた焦げ茶色の甲羅が特徴です。また名前の由来は体脂肪が緑色(青色)をしているためであり、決して青色をしたカメではありません。
体脂肪が緑色をしているのは主食としている海藻のためであり、自然界ではアマモやヒルモといった海水生の植物、岩やサンゴに生えた藻類を食べる植物食です。ただし、ときにはクラゲや海綿動物といった動物性のものも食べることもあります。
飼育下ではイカやアジといった動物質のものを食べさせることが多いことから本来は雑食であると考えられます。
繁殖様式は卵生で交尾を行うと夜間に砂浜の低木の下に穴をほって産卵します。1回につき100前後の卵を産み、再び海へ戻っていきます。
卵は約1ヶ月半〜2ヶ月で孵化し、夜明けに群れで海へ向かっていきます。
その後は20年以上の歳月を経て成熟し、産卵が可能になります。
熱帯域では周年産卵するようですが、国内では3月〜初夏にかけて生息海域で交尾を行い、初夏から夏にかけて産卵期に入ります。
産卵時には目に砂が入らないように粘液を流しながら産卵を行うことから「ウミガメの涙」とも呼ばれる行動をとり、その姿が幻想的です。
「アオウミガメ」の分布・生息地
アオウミガメは太平洋、インド洋、大西洋、地中海と世界各地の亜熱帯から熱帯の海に生息します。大規模な産卵地には、インドネシア、サウジアラビア、オマーン、ギニア、コスタリカ、セーシェル、マレーシア、ミヤンマー、ガラバゴス、フロリダが確認されており、その周辺海域にかなりの個体が生息すると考えられます。
基本的には浅海域に見られるカメで、沖合を遊泳することは少ないです。
国内では紀伊半島以南の太平洋、南西諸島、小笠原諸島に生息しており、小笠原諸島が主な産卵地になっています。過去には南九州市や愛知県豊橋市、八丈島などでも産卵が確認されています。
サンゴ礁ができるほどには温かい海に生息しており、基本的には低温には弱く、黒潮や対馬海流に乗って北の方までやってくる個体も稀に存在し、真冬の北陸や東北の砂浜に打ち上がることもしばしばです。
中には弱った個体や、時期的にも海に返せない場合は水族館などの施設で保護されることもあります。
「アオウミガメ」が絶滅危惧種となった理由
アオウミガメは現在、国内では絶滅危惧種Ⅱ類に分類されており、近い将来絶滅の危機に直面すると言われています。アオウミガメが絶滅危惧種に分類されるようになるまでに数を減らしたのには大きく分けて3つの要因があります。
環境破壊
特にプラスチックごみの流出による事故が絶えません。
ビニール袋やナイロン袋などのゴミは自然界では分解されません。一度海に捨てられたら深海にたどり着くまで、再び陸地にたどりつくまで、ただ海を漂い続けます。
その姿はクラゲそのものといっても過言ではないほど似ています。人間の目にはハッキリと見えているため、クラゲとビニール袋くらいはある程度見つめれば判別することはできます。
しかし、海の生物は人間ほど視力はよくありません。そのため、嗅覚をつかったり、その他感覚機能がよく発達していることが多いです。特に海の中ではいつ獲物を捉えることができるかわからないため、餌と思うものは反射的に捕食してしまう傾向があります。
植物食の強いアオウミガメにとってクラゲは貴重なタンパク質です。動きも緩慢なクラゲはアオウミガメにとっては恰好のごちそうなわけですが、ビニール袋を誤飲してしまうウミガメがあとを立ちません。
ビニール袋は体内で消化されることはなく、そのまま排出されることもありますが最悪の場合、消化器官を詰まらせて内臓が壊死し、ウミガメが死んでしまうということが起こります。
実際、漂着し死亡したウミガメの解剖から大量のビニール袋を食べていたという記録も残されています。
乱獲
絶滅危惧種にされる生物に必ずといってもついてくる乱獲問題。
ウミガメの甲羅は昔から高額な素材であり、装飾品や粉にして薬膳にするといった漢方の用途で使われています。
現在ではそういったことは認められず、原則は禁止されているものの、発展途上国ではそこまで取締ることが難しく、高額なこともあって密漁が横行しています。
発展途上国では警察のパトロールも不十分で、島国となれば監視の目はかなり薄くなってしまいます。
密漁団はそういったところでウミガメの捕獲を行い、甲羅を売りさばきます。いわゆる、マフィアなどの資金源として乱獲されているようです。
そのほかには現地の方の貴重なタンパク源として食されている地域もあるようです。生活水準の低い発展途上国では漁業を生業とする人口も多く、ときに網にかかってしまったウミガメは束の間のご馳走となってしまいます。
そういった形でウミガメが漁獲されることからなかなか取り締まりが難しいということが挙げられます。
またウミガメは浅海域の岩礁帯を住処にしていることから南国を中心に行われている刺し網漁の網にかかってしまい、脱出ができずに溺れ死んでしまうことがあります。そういった混獲もウミガメ類の減少に影響を与えています。
温暖化
地球温暖化により各地で温度が上昇していることがウミガメの孵化に影響を与えていることが研究でわかってきました。
それは温暖化に寄って高い温度で砂の中で温められたウミガメの卵は高確率でメスになるというものです。
もともと、29.3℃で孵化した場合、雄と雌、半々で生まれてくると言われています。しかし、オーストラリアでの調査で地球温暖化に伴いメスの比率が増え、一部地域では幼体のウミガメの99%がメスであったとこがわかっています。
今後、さらに地球温暖化により世界全体の温度が上昇していくとされていますが、ウミガメの繁殖に大きく影響を与えることは間違いないでしょう。
最終的にメスのウミガメしか残らなければ繁殖することはできず、種としては絶えることになります。
これはアオウミガメだけではなく、ウミガメ全体に言えることであり、特に影響を受けるのは生息地の限られたウミガメでしょう。アオウミガメは世界全体に生息していますがメキシコ湾のみに生息するウミガメもおり、生息地の温度が上昇すれば絶滅から逃げることはできないでしょう。
ウミガメを取り巻く環境の変化は著しく、何万年も掛けて進化してきたウミガメは環境の変化に適応できなかったり、人間による乱獲や環境破壊の影響を大きく受けていることがわかります。
「アオウミガメ」の保護の取り組み
日本各地でもアオウミガメを保護する活動は盛んに行われています。
プラスチックによる汚染や水質汚染によるウミガメへの影響を後世に伝えるための講義などを行うことでウミガメへの興味と海洋汚染に関する知識を身につけてもらうことがまず、先決でしょう。
そういった保護啓発活度はウミガメの産卵が行われている場所の保護団体や博物館などを中心に行われています。
ウミガメの産卵の調査を行うことで毎年やってくるウミガメの数を把握し、ウミガメのやって来やすい海岸環境を整備したり、孵化率を調べることで前述の温度が与える影響や、卵を保護し、人工的に孵化させることで卵の状態で食べられたりするなどのリスクを回避し、子亀を放流するなどの活動も行われています。
ウミガメが最も捕食されやすいのは子ガメが海に向かっていくときであり、海岸に生息する動物や鳥、ときにはカニまでもが子ガメを捕食しようとやってきます。海に向かっていく子ガメは命がけなのです。
その初期の減耗を防ぐため人工的に孵化させてある程度の大きさになってから人間の監視のもと海へ帰ってもらうという活動はウミガメにとっても確実に海に出ることができる最善の方法でしょう。
また漁具にかかってしまったウミガメを保護する活動も行われており、黒潮や対馬海流と行った南から北に向かって流れる暖流に乗って東北や北陸地方にまでウミガメがやってくることがあります。
こういった要因で弱った個体を保護し、水族館で飼育することでウミガメの体力を回復させて自然に返すといったことは全国で行われています。
しかし、あまりに北にまでやってきた個体などは海に返すことは不適切で自然下でも死んでしまう可能性が高いと判断されることがあります。そういった場合は水族館で展示され、安全な環境の下、生活をするケースもあります。
アオウミガメは世界でもまだ絶滅の危険性が特別高い位置にいる生物ではありませんが、希少な生物であることに違いはなく、密猟による乱獲の対象になっています。
加えて人間の経済活動による海洋汚染の影響をもろに受ける生物でもあり、さらには地球温暖化によりメスしかいなくなる可能性も危険視されています。近い将来、一気に数を減らす可能性もあるため、まだ個体数がある程度存在する今だからこそ保護活動に力を入れていくべき生物であると言えます。