絶滅危惧種 PR

【アメリカアカオオカミ】特徴や生息地・絶滅危惧に至った原因

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「野生のオオカミっているの?」

「絶滅から復活した生きものは何?」

アメリカアカオオカミは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでCR(critically endangered:絶滅寸前)に掲載される野生動物です。

日本のオオカミは既に絶滅していますが、アメリカアカオオカミは世界で今もっとも絶滅に近いオオカミといわれています。

最後まで読んでいただくと、アメリカアカオオカミの特徴・生態・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。

 「アメリカアカオオカミ」とは

アメリカアカオオカミは英語でred wolf(赤いオオカミ)で、食肉目イヌ科イヌ属に分類されています。

鼻・耳の後ろ・脚の後ろ側が赤みがかっていることがあるため、「赤いオオカミ」の英語名になったようです。

アメリカアカオオカミはコヨーテやシンリンオオカミと共通の祖先をもち、古いタイプのオオカミといわれています。

ここからは、アメリカアカオオカミの特徴や生態について解説していきます。

アメリカアカオオカミの特徴

アメリカアカオオカミの体長は(頭の先から尾の先まで)90~130cm、体重18~40kgで、オスの方が大きくメスは一回り小さいです。

毛は灰色・褐色・淡褐色など個体差があり、鼻・耳の後ろ・脚の後ろ側が赤みがかって見えるものもいます。

北アメリカ大陸にはシンリンオオカミ(graywolf)も生息しますが、アメリカアカオオカミの方が少し小さめです。

シンリンオオカミに比べると、アメリカアカオオカミの顔は縦に細長く耳が大きく、脚が細いのが特徴となっています。

一見、ジャーマンシェパードのようにも見える体型です。

アメリカアカオオカミの食べもの

アメリカアカオオカミは肉食で、ノウサギ・ヌートリア・アライグマなど自分より小さい生きものを主に餌としています。

また、昆虫やザリガニなどの甲殻類、自分より大きいシカを獲物にするなど、生息地や季節によって柔軟に餌を変えているようです。

基本的に夜行性で夜に狩りを行い、日中は草の上や地面に掘った穴の中で休息しますが、冬には昼間も活動します。

餌を求めて一日に30kmもの移動が可能です。

アメリカアカオオカミの子育て

アメリカアカオオカミは、オス・メスのペアとその子どもからなる5〜8頭の群れを作って生活しています。

群れの中には、前年や前々年に産まれた年上の子ども達もいて子育てを手伝うのです。

生涯同じパートナーを選び、繁殖期は1〜3月で雌は4〜5月に1〜9頭を出産します。

子育て中は両親が協力し、獲物を捕らえて巣に運ぶのも雄雌両方です。

子ども達は2〜3年後に自分のパートナーを求めて群れを離れますが、大人になるまで育つのは産まれた内の半数ほどになります。

アメリカアカオオカミの寿命は、野生化では6年、飼育下では15年以上とのことです。

「アメリカアカオオカミ」の分布・生息地

現在、野生のアメリカアカオオカミは米国ノースカロライナ州東部のアリゲーターリバー国立野生生物保護区およびポコシン湖国立野生生物保護区周辺のごく狭いエリアに生息しています。

かつては米国中南部と東部に広く分布していましたが、ノースカロライナ州の野生生物保護区が現在最後の生息地となってしまいました。

森林・湿地・海岸・湿原など多様な環境を生息地として利用できます。

アメリカアカオオカミは限られたエリアで人と距離をおいて生息しているので、なかなか目にすることができません。

「アメリカアカオオカミ」の分布の変化

アメリカアカオオカミの生息範囲は、米国に人々が移り住み人間の生活範囲が広がるにつれ狭められていきました。

1972年までに、テキサス州南東部からルイジアナ州南西部のごく狭いエリアに残るのみとなってしまったのです。

そのころ米国魚類野生生物局は、アメリカアカオオカミの絶滅を防ぐために「種の保存計画」を開始しました。

野生個体を捕獲して飼育下で増やし、発信機を装着して野生に戻すという取り組みが「種の保存計画」の下で続いています。

現在の生息地であるノースカロライナ州野生生物保護区は、「種の保存計画」によってアメリカアカオオカミが再導入された場所なのです。

一方、テキサス州南東部からルイジアナ州南西部に残されていた野生のアメリカアカオオカミは姿を消し、1980年に「絶滅した」とされています。

「アメリカアカオオカミ」の生息数

野生下でのアメリカアカオオカミの生息数は、現在20頭前後とされています。

2022年のデータでは次の通りです。

確認個体数(発信機装着済み):10頭
推定個体数 :19〜21頭
飼育下の個体数 :243頭
(参照 Population estimate as of July 2022

かつては数千頭いたといわれるアメリカアカオオカミですが、1980年には「絶滅」に至ってしまいました。

現在「種の保存計画」により飼育下の個体数は回復してきていますが、野生での復活は道半ばです。

「アメリカアカオオカミ」が絶滅危惧種となった理由

アメリカアカオオカミが生息数を減らしていった理由は主に4つ上げられ、どれも人為が関係しています。

多様な環境を生息地として利用できるアメリカアカオオカミが、生息範囲を狭めていった理由は何なのでしょうか。

アメリカアカオオカミを2度目の絶滅から救うには、生息数を減少させた原因を知ることが大切です。

以下にそれぞれ説明していきます。

人間の恐怖心

オオカミを絶滅に追いやった最大の要因は、「オオカミ=怖い」という人間の思い込みといえます。

童話に出てくるオオカミが「Big Bad Wolf(大きくて悪いオオカミ)」として描かれるのは、おなじみの展開です。

確かに、家畜や人がオオカミの群れに襲われ犠牲になったことも事実であり、オオカミ根絶計画が政府の支援下で実施されたこともあります。

しかし、自分より小さい生きものを餌にしてきたアメリカアカオオカミがそれほどの脅威であったとは考えられません。

人間の恐怖心が集まって負の力となり、アメリカアカオオカミを駆逐してしまったのです。

交通事故

交通事故もアメリカアカオオカミの死因としてあげられます。

米国は自動車大国で走りやすい道路が整備され、夜間でもかなりのスピードで走行が可能です。

飼育下から野生に放されたアメリカアカオオカミは、自動車の危険性を知らずに育っているため交通事故に合う危険が高まります。

現在でも「種の保存計画」で野生に戻されたアメリカアカオオカミが、交通事故で亡くなるケースが絶ちません。

コヨーテとの交雑

交配でコヨーテとの雑種が生まれることによって、純粋なアメリカアカオオカミの数が減ってしまうのも原因の一つです。

もともとアメリカアカオオカミとコヨーテとは生態が似ていて交配が可能なことが分かっていますが、今のところ両者は別種とされています。

アメリカアカオオカミは生息数の減少によりペアリングの相手が見つけにくい場合、コヨーテを相手として選んでしまうことがあるのです。

また、長年連れ添う相手が交通事故などで死んでしまった場合などにも、埋め合わせにコヨーテを選ぶことが確認されています。

コヨーテとの交雑を避けるためにも、野生下でのアメリカアカオオカミの個体数を十分に回復させることが必要なのです。

「アメリカアカオオカミ」の保護の取り組み

アメリカアカオオカミを2度目の絶滅から救うために、米国政府と保護団体が協力して取り組みが進められています。

アメリカアカオオカミは米国の絶滅危惧種法の対象種で、米国魚類野生生物局による「種の保存計画」が目指すのは野生での復活です。

規制に対する地元の反発や計画の縮小を余儀なくされるなど、逆風や反省もありましたが様々な経験と知見が積み重ねられています。

具体的な取り組みの例は、次のとおりです。

「種の保存計画」が目指す野生での復活

「種の保存計画」の下、1973〜1980年に野生で残っていた数少ないアメリカアカオオカミ数匹が捕獲され、人の手による飼育が始まりました。

飼育下のアメリカアカオオカミは2022年には240頭を超え、それぞれ米国内の動物園や保護センターなどで管理されています。

研究者によると野生での回復を目指し遺伝的多様性を保つためには、飼育下の個体数を400頭まで増やしたいとのことです。

最初の放獣は1987年で、ノースカロライナ州東部のアリゲーターリバー国立野生生物保護区で8頭が野生に戻されました。

その後1994年までの間に60頭の成獣が放たれ、野生に戻された個体は順調に群れを作っていき2006年の野生個体数は130頭でピークを記録しています。

長年の取り組みの中で、子連れの野生オオカミの巣穴に飼育下の子どもオオカミを入れ、引き取ってもらう方法が最適だと分かってきました。

子どものオオカミが、野生で生きていくために必要な知恵を親オオカミから直接学べるという効果も期待できるのです。

2006年に最大値を記録した野生のアメリカアカオオカミですが、その後再び数を減らし現在は20頭前後と推定されています。

2019〜2021年、野生下でのアメリカアカオオカミの出産は確認できませんでした。

2022年の放獣は、放された成獣10頭のうち6頭は射殺と交通事故で死亡し、3匹は飼育場所に戻るという結果に終わっています。

野生動物の保護はとてつもなく困難であることに変わりなく、ずっと順調満帆というわけではありません。

種の保存計画に携わる保護活動家は、野生化の個体数が40〜50頭まで増え安定するまでは放獣を続けていく必要があると述べています。

地域住民の理解

アメリカアカオオカミが、人間にとって危険な存在ではないと知ってもらうことが何よりも大切です。

地域社会の理解を進めるために、政府と自然保護団体が協力して説明会の実施や看板設置などを計画しています。

また、アメリカアカオオカミが私有地に入ることを認めた土地所有者に対して、対価を提供するという方法によって約4㎢の土地が確保されました。

今後もアメリカアカオオカミの生息に適した環境が維持されるとともに、地域住民の理解を得るための努力が必要です。

交通事故対策

アメリカアカオオカミが自動車と衝突するのを防ぐことは簡単ではありませんが、放置できない問題です。

米国魚類野生生物局では、交通事故を減らすために次の施策を進めています。

  • 道路標識の設置
  • 反射板の設置
  • 野生動物用の道路横断施設の設置
  • 携帯メッセージボードによるドライバーへの呼びかけ

これらのほか、飼育下のアメリカアカオオカミが車や車道を避けることを覚えるように、車と嫌な条件を結びつけるようにするなど工夫がされています。

飼育下から放獣する時期についても配慮されており、交通量が増える農繁期には放獣されません。

アメリカアカオオカミの交通事故を防ぐための努力が続いています。

私達にできること

「オオカミ=怖い」というイメージで排除するのではなく、正しい生態を知り共存していく道を探るのが人間にとって妥当な選択といえるでしょう。

オオカミが絶滅してしまい、トップを失った生態系がバランスを崩している良い例が、日本の現状です。

オオカミの獲物だった草食獣が増えた結果、高山の希少な植生が破壊されたり、農作物が被害に合ったりするという問題が全国各地で起こっています。

生態系の頂点に位置するオオカミが存続できる環境は、どの生きものにとっても豊かな生態系といえるのです。

今後「種の保存計画」が実を結び、野生のアメリカアカオオカミが復活をとげ安定して存続していくことを願わずにはいられません。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。