「オオオビハシカイツブリ」とは
水鳥の1種であるカイツブリの仲間で、詳細な分類ではカイツブリ目カイツブリ科オビハシカイツブリ属となっています。
カイツブリの中では大型種で、全長は43〜50cm前後もあります。種小名には「大きい」を意味する「gigas」が付けられており、その大きさを表しています。
体を覆う羽毛は黒褐色〜暗褐色で、体の側面は白〜灰白色の細かい斑点模様がありました。
頭の割に大きな嘴は大部分が白く先端が褐色、真ん中には黒い帯状の模様が縦に入っています。この模様が名前の由来となりました。
後ろ肢は灰色で目の虹彩は茶色です。翼はありますが小さく退化しており、飛べなかったと考えられています。
食性は動物食性であり、昆虫類やエビ、カニ等の甲殻類、タニシ等の軟体動物や小魚を捕食していたとされています。
特に潜水が得意で、水中を泳ぐ小魚や甲殻類も素早く潜水し、捕らえていたそうです。また、カエルやサンショウウオ等の両生類も捕食する事があったという記録もあります。
繁殖期になると葦の茂みの中に島のような巣を作り、4〜5個の白い卵を産卵したとされています。
子育て等の詳しい記録はありませんが、カイツブリの仲間なのでヒナを背中に乗せて湖を移動していたと考えられます。
「オオオビハシカイツブリ」の分布・生息地
南米のグアテマラにある「アティトラン湖」に生息し、固有種であるとされています。
この湖は世界で最も美しい湖とも称されており、標高1700m以上の高地に位置していたため避暑地としても知られていました。
「オオオビハシカイツブリ」の絶滅した原因
この水鳥を絶滅にまで追い込んだ原因は、観光地でもあるアティトラン湖に観光客が集まった事による環境悪化、ブラックバスやスモールマウスバスによる餌の現象とヒナへの攻撃、大地震による湖の水位の現象であると考えられています。
アティトラン湖は元々観光地のため観光開発のために生活場所である葦の茂みを伐採していました。
さらにはオオオビハシカイツブリを始めとする水鳥達を捕獲する人達まで現れ、これらの理由から1959年に当時のグアテマラの首相が水鳥達の捕獲を禁じました。
しかし1958〜1960年には別の問題がオオオビハシカイツブリを襲ったのです。
それがアティトラン湖に住み着いていたブラックバス等の肉食魚でした。この魚は非常に大食漢で、湖に生息する甲殻類や小魚達を手当たり次第に捕食していったのです。
さらに、ブラックバス達はオオオビハシカイツブリの生後間もないヒナすら襲い、その命を奪っていきました。餌を奪われ、ヒナも襲われたカイツブリ達は保護されていたにも関わらず数を減らし、1965年には80羽程しかいなかったそうです。
また、仲間や生息地が狭くなった影響か、同じ湖に生息する近縁種・オビハシカイツブリと交雑するようになったと言われています。
その後、この鳥を守るために湖に生息するバス達を駆除し、葦を植えた事で、1973年には200羽まで頭数を回復する事ができました。
しかし、1976年に発生した「グアテマラ地震」によってアティトラン湖の周辺で決壊が起きてしまい湖の水位が下がってしまいました。
その環境変化は凄まじく、湖の面積が大きく減少してしまう程で、生活場所がさらに減少する要因となりました。
また、オオオビハシカイツブリの保護のために監視員を配置したものの1982年の内戦により監視員が死亡、1年間監視員がいない間に再び数を減らし、1983年には30羽程しか生存を確認できなかったそうです。
しかも、それらの個体だと多くがオビハシカイツブリとの交雑種であり、純粋な個体ではなかったとされています。
それから数年の月日が経ち、1989年を最後にオオオビハシカイツブリの姿は確認できなくなったため絶滅したと考えられています。
カイツブリの仲間の意外な弱点
オオオビハシカイツブリを始めとするカイツブリの仲間は水鳥の中でも水上、水中に特化した種類と言われています。
それは、カイツブリの仲間の後ろ肢は体の後半寄りに位置しているためで、この独特の体の構造はジェットボードに近く、後ろ肢による推進力を高めているのです。
また、障害物の少ない水上では胸を大きく反った独特の姿勢で猛ダッシュをする事もあります。
しかし、この体型は障害物の多い陸地では非常に不利であり、長距離をダッシュできないだけでなく、体が自然と前のめりになるので陸地を移動するだけでも一苦労です。しかも飛ぶのも苦手です。
これらの身体的特徴も、皮肉な事に絶滅の要因になってしまったのかも知れません。
「オオオビハシカイツブリ」の生き残りの可能性
幾度の不運に晒されてしまったオオオビハシカイツブリですが、1989年以降その姿を発見されていません。
しかし、オビハシカイツブリとの交雑種がまだ生き残っていればターパンのように交配を繰り返す事で「復元」ができるかも知れません。
現代では生きている姿を見る事はできませんが、グアテマラの切手にはオオオビハシカイツブリが描かれている物もあり、この鳥がどれ程現地で親しまれていたかが分かります。
個人的には、オオオビハシカイツブリが世界で最も美しい湖の片隅で生き延び、人前で再びたゆたう姿を見せて欲しいと願いたいです。