絶滅危惧種 PR

【ジンベエザメとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

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「世界最大」という言葉には、何とも言えない魅力があるようです。

シロナガスクジラやダイオウイカなど、海洋には巨大生物が多く長い間動物学者を初めとする研究者達は、その生態や未知の生物の探求に尽力して来ました。

そんな中初めて図鑑で知り「海遊館」で実物を見た『ジンベエザメ』これは今でも脳裏に焼き付いて離れません。

あれ程の巨体を持ちながら敵意がまるでなく、主食は海中で一番小さな浮遊生物(プランクトン)と、驚くほどのギャップに魅了されたものです。

今現在、地球の歴史上最大の生物がシロナガスクジラです。そんな動物に次ぐ巨大生物が魚類に属する『ジンベエザメ』になります。

ではジンベエザメは一体どの様な生態を持ち、置かれている現状は一体どうなっているのか?その名前は周知されていますが、詳細を熟知している方はごく僅かなのではないでしょうか?

そこで今回は彼らジンベエザメの知られざる現状や、その生態についてまとめてみました。

「ジンベエザメ」とは

ジンベエザメは漢字で『甚平鮫』『甚兵衛鮫』と表記します。その呼び名からも分かる様に、日本においても古くから漁師の間でその存在が周知されています。

ジンベエザメの生息域には豊富なプランクトン群が多く、それを求め目当ての魚類が群がるので、漁師の間では漁獲物の目印としての意味合いも持っています。

水面からその姿を眺めると、着物の柄である甚平模様にそっくりであることが、その名前の由来とされています。

その口腔内には『鰓耙(さいは)』という特殊な器官を持ち、海中に漂う浮遊生物(プランクトン)を海水ごと大量に呑み込み、まるでろ過する様に一網打尽に捕食します。サンゴの卵も大好物であり、その産卵期にはサンゴ礁に出現し積極的に食べ尽くすほどです。

ごく稀に魚類や海藻などが混入することもありますが、基本的にはその巨大な身体を海中で最も小さな生物「プランクトン」で支えているのです。

この様な生態は生物学的に「ニッチ」と呼ばれており、巨大な海洋生物に於いて顕著に見られます。

全長30mにも達し、地球の歴史上でも史上最大の哺乳類である「シロナガスクジラ」もオキアミという小エビを主食とするろ過捕食者であり、魚類に於いてもジンベエザメに次ぐ2番目に大きな「ウバザメ」でさえ、プランクトンのみを捕食します。

実はこの「ニッチ」という特徴が巨大化する要因の一つです。

ある程度の大きさの獲物を捕食対象とするか?普遍的に海中に存在し、決して食いはぐれる事のない小さな生き物を捕食対象とするか?この差は非常に大きく、常時餌に困る事のない海洋プランクトン捕食者は、そのイメージとは真逆で餌に困ることがなく、巨大化する傾向を持ちます。

ジンベエザメはテンジク目ジンベエザメ科ジンベエザメ属に分類される、一属一種の魚類です。

魚類の中でも巨大種であるウバザメが全長12.27mという最大記録を持ちますが、ジンベエザメは実に20mを超える個体も報告されています。

体重は20tにも及び、ある著名な日本人ダイバーはその姿を見るなり失神してしまった…というエピソードも持ちます。

ろ過できる海水量は一時間に2000~3000ℓとも呼ばれ、一般的な魚類の2対の䚡裂(さいれつ:鰓の排水口)を上回る5対もの䚡裂を兼ね備え、全ての海水を効率よく吐き出します。

水面付近に生息するプランクトンを吸い込むため、捕食スタイルは頭部を海上に向ける立ち泳ぎを頻繁に行います。

繁殖方法はかなりの間「卵生種」とされていましたが、1995年に台湾沖に打ち上げられたメス個体の解剖所見から、この説は大きく覆ることとなります。

このメス個体は全長10.6m・体重16tの成熟個体であり、しかも妊娠をしていたのです。

この発見でジンベエザメは完全な『卵胎生』の魚類であり、その体内からは50~60cm前後に成長した仔魚が307匹も見つかりました。

体内で孵化しきれなかった卵も見つかり、その形状は楕円型をしており、長径30~40cm・短径は約10cmとかなり大きなものです。

この307匹の内、奇跡的に生き残った1匹が台湾の水族館で飼育されましたが、残念ながら3か月後に死亡してしまいました。

この台湾での新たな発見により、ジンベエザメはメスの体内で受精卵が孵化し、50~60cmほどの大きさの稚魚を産み付ける『卵胎生』を行うことが明らかになります。

その後、各国における追跡調査で、性成熟に要する年齢は約30年も要することが判明し、繁殖力が非常に乏しい種であることが証明されます。

寿命は60~80年ほどと非常に長寿であり、その環境や健康状態が良ければ130歳を超える個体も確認されているほどです。

巨大海洋生物としては非常に珍しく、日本国内の水族館で飼育されているケースが多数存在します。

世界でも日本はジンベエザメ飼育の先進国で、最初の飼育を試みたのは1934年までにも遡り、中之島水族館(現在の三津シーパラダイス)で4ヶ月ほど飼育されていました。

この時代は水槽飼育という概念がなく、伊豆近海の生簀内に縄を張り巡らせ、飼育されていたそうです。

それから約50年後の1980年に「国営沖縄記念公園博物館(現沖縄美ら海水族館)」にて初の水族館・水槽内での飼育が試みられます。

その当時としては異例の1100tもの水槽を設置されたことで、ジンベエザメ飼育は一躍、全国に知れ渡ることとなります。

その他にも1990年には大阪の「海遊館」でジンベエザメ飼育が始まります。

それに続き2000年には鹿児島県の「いおワールドかごしま水族館」で、2010年からは石川県の「のとじま臨海公園水族館」で展示飼育が開始されます。

また過去には神奈川県の「八景島シーパラダイス」「大分マリーンパレス水族館」「おたる水族館」、生簀飼育で「下田海中水族館」「あわしまマリンパーク」での飼育実績もあります。

巨大海洋生物ながら各水族館でその飼育が順調な理由は、ジンベエザメが極めて温和な性格をしており、与える餌の入手のしやすさも挙げられます。

そのノンビリとした性格のため、飼育員にもよく懐き直接オキアミ等をねだりに来るほど慣れ、水槽内でもストレスを受けにくい点も大きな要因でしょう。

この様にジンベエザメは巨大な魚類でありながら、水族館などの大規模施設での飼育が比較的容易という、極めて例外的な生態や性格を持ち合わせているのです。

「ジンベエザメ」の分布・生息地

ジンベエザメは温帯・亜熱帯・熱帯地方の海域を頻繁に渡り歩く回遊魚です。

赤道直下の緯度が0℃となりますが、基本的には赤道を挟み、北に30℃南に30℃といった海域を強く好み、主な生息域にしています。

ただその大きな体から推測できるように、生息域はかなりバラつく傾向があり、余程の寒冷海域でなければ、その姿をよく目にします。

魚類最大種ですが深海域に潜ることは一切なく、ほぼ完全な表層魚といえます。

プランクトン食ということもあり、その方がジンベエザメにとって理に叶っているのでしょう。

好物であるサンゴが群生するサンゴ礁や、砂場やサンゴ礁域により外海から隔離された浅い水域「ラグーン地帯」、果てには河口付近にも出没することもあり、かなりの広範囲を回遊することが推測されています。

面白いことにメス個体は特定の海域に集結し群生することが多いのですが、オスは基本的に単独で広範囲にわたる海域を回遊する習性を持ちます。

その繁殖に何らかの関係性があると示唆されていますが、その点は未だ解明されていません。

ただジンベエザメは基本的に餌が豊富な海域でない限り、群生することはないので、何かしらの因果関係があるのではないか?と見なされており、分布・生息地とその繁殖形態との因果関係が目下継続し研究されています。

「ジンベエザメ」が絶滅危惧種となった理由

ジンベエザメは本種を対象とした漁業・他の魚類の漁獲時の混入などにより、著しくその姿を減らしています。

国内で食卓に上がることはありませんが、ある国によってはそのヒレは高級食材のフカヒレとして重宝され、更に発展途上国などでは魚油を求めて乱獲されてしまうケースもあります。

また、タンカーの座礁による海洋の原油汚染・行き過ぎた観光業やウォッチングによるジンベエザメ自身の混乱やストレス・船舶のスクリューによる巻き込み事故などにより傷つくジンベエザメも多く、その個体数の減少が強く懸念されています。

地球温暖化や海洋汚染等もジンベエザメにとり、かなり深刻な問題です。

彼らは高次捕食者でありながら、プランクトンなどの低次捕食者を主食とする生き物なので、温暖化や汚染の影響を意の一番に受けてしまいます。

生物濃縮を経るまでもなく、汚染源となるプランクトンを真っ先に食べる上に、地球温暖化はプランクトンの発生にも強く影響を及ぼしてしまいます。

食料の増減が激しく、更にその食料群が汚染されていたならばジンベエザメにとっては致命的でしょう

昨年2021年に沖縄美ら海水族館のメス個体が、寿命より早く死亡しました。

その際の病理解剖では何と消化器官にプラスチック状の「くし」が突き刺さっていたそうです。

あくまで確認できた一例ですが、その捕食スタイルから海洋ゴミなどを誤嚥してしまったのでしょう。

またジンベエザメは子孫を残すまで30年もの時間を要する上に、繁殖機会も極めて少ないというデータもあり、一度その数を減らしてしまうとなかなか総個体数の回復が厳しいというのも、数を減らす要因の一つとなります。

現時点での保全指標はIUCN(国際自然保護連合)の評価で「絶滅危惧カテゴリー」に位置するEN(Endangered)であり、近い将来における野生での絶滅が近い“絶滅危惧ⅠB類”の生き物として位置づけられています。

更にはワシントン条約の附属書Ⅱ…即ちサイテスⅡ類として保全・保護活動も国際的に行われているのが現状です。

ただやはりIUCNとワシントン条約の間では多少の解離が生じており、サイテスⅡ類では「絶滅のおそれのある種ではないが、その種やその種由来の材料が違法な手段で捕獲や採取、取引が行われるのを規制するために掲げられる」という定義に留まっています。

そして保護活動を行う上で最も重要となる“現存生息数”が、ジンベエザメの場合は全く把握できていません。

赤道付近に点在し、その食形態から回遊する魚類なので、要となる頭数が不明瞭なのです。

そのため、現在把握している保護施策が的外れになっている…そんな危険性もはらんでいるのです。

「ジンベエザメ」の保護の取り組み

前項でお話した様に、ジンベエザメはその総個体数の把握が極めて困難です。

赤道沿いのありとあらゆる海域に生息するため、保護を行う人間側は、取り敢えずの目安を打ち立てたに過ぎません。

ただ90年代に最もジンベエザメを捕獲し、その捕獲総数が年間3000匹にも迫っていたインドが現在積極的な保護に乗り出しています。

2000年代に入り熱心なロビー活動により、インド洋全域のジンベエザメは国内に於ける「野生生物保護法」により、最高水準の法的保護を受けるよう認定されました。

インド国内の「Wildlife Trust of India(WTI)」は各方面の力を借り、ジンベエザメ保護の普及に乗り出します。

今まで誤って魚網にかかったジンベエザメは、そのまま漁獲物として流通していましたが、WTIは世界で初めてジンベエザメの救助に対する補償制度を確約しています。

漁師が誤ってジンベエザメを網にかけてしまった場合、被った損害を全て当該団体が保証する制度を作り上げました。

更にWTIは漁船ごとに計1500台もの防水カメラを無償提供しています。

このため網にかかり弱ったジンベエザメを早期に発見でき、約700匹のジンベエザメの救出に成功しています。

またジンベエザメにGPS内蔵のタグ付けをし、行動範囲の調査も並行して行っています。

インド以外の各国でも保護意識は急速な高まりを見せつつあります。

2014年には香港の環境保護団体「ワイルドライフリスク(Wild Life Risk)」
により、フカヒレ生産の本場、中国浙江省のジンベエザメ解体処理工場が告発され摘発を受けています。

この解体工場は何と年間600匹を解体・処理しており、世界最大規模のジンベエザメ処理工場でした。

フカヒレが高級食材である中国では、ジンベエザメのフカヒレはかなりの貴重品です。
この結果、工場は完全廃棄されジンベエザメ捕獲は右肩下がりになります。

捕鯨反対国であるオーストラリアや欧州各国は、既に捕獲を完全ストップしており、積極的にジンベエザメを捕えていたインドや中国などでも、強い保護意識が完全に根付いています。

日本国内でも各団体による保護施策・活動が後を絶ちません。

ジンベエザメの数が増えるにはかなりの年月を待たなければいけませんが、この様な世界各国の尽力によって、かなり明るい未来が見えているのではないでしょうか?