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【スペインオオヤマネコとは】特徴や生息地・絶滅危惧種になった原因を紹介!

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  • 「スペインオオヤマネコは、スペインにいる?」
  • 「スペインオオヤマネコって、飼い猫とどう違う?」
  • 「スペインオオヤマネコは、絶滅危惧種なの?」

スペインオオヤマネコは、スペインとポルトガルが位置するイベリア半島に固有で、唯一の大型肉食哺乳類であり、ネコ科の中で最も絶滅に近い動物です。

ヤマネコとは一般的に、ネコ目(食肉目)ネコ科に属する小型の野生動物をさします。ペットとして飼われているイエネコは、長い歴史の中でヤマネコが家畜化したものです。

かつて、スペインオオヤマネコは、イベリア半島全域に生息していました。しかし、今ではスペインの一部に生息するのみとなり、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:絶滅危惧)に掲載されています。

最後まで読んでいただくと、スペインオオヤマネコの特徴・生態・分布域・絶滅危惧種になった理由などについて知ることができますので、ぜひご覧ください。

スペインオオヤマネコとは

スペインオオヤマネコは、哺乳綱食肉目ネコ科オオヤマネコ属に分類され、別名イベリアオオヤマネコとも呼ばれています。

オオヤマネコ属には他にも多く種がいますが、スペインオオヤマネコはイベリア半島にのみ生息し、大きさはユーラシアオオヤマネコの半分ほどしかありません。下草が豊富なオーク林や低木林に生息し、主な餌資源をアナウサギに依存しています。

ここでは、スペインオオヤマネコの特徴やくらしについて解説していきます。

スペインオオヤマネコの特徴

スペインオオヤマネコは、オオヤマネコの典型的な外観をしていて、耳の先端の房状の毛が目立つ小さな頭と、長い四肢、短めの尾をもっています。

体長は約80〜110cm、尾長12〜13cm、体重約10〜15kgで、オスの方がメスよりも3割ほど大きいです。

体毛は、夏季は黄色がかった赤褐色で冬季は灰色っぽくなり、濃い茶色または黒色の大小の斑点が胴体や尾、脚に多数あります。毛皮の模様は個体差が大きく、斑点のない個体と多くの斑点をもつ個体が近くで暮らしていることもあるようです。

成獣の顎周りにあるエリマキのような毛は、他のオオヤマネコの種よりもはっきりしています。顎は長く、鋭い犬歯を使って、素早い小動物を一噛みで仕留めることが可能です。

スペインオオヤマネコは、灌木に姿を隠しながら生活し、ウサギを狩るのに適した身体的特徴をもっています。

スペインオオヤマネコのくらし

スペインオオヤマネコのくらしは季節によって変化し、夏は夜行性で夜明けや夕暮れ時に活動しますが、冬季に活発になるのは日中です。 彼らの活動パターンは、ウサギの活動パターンと密接に関わっています。

コルクガシなどの硬葉樹の低木林や松林に生息し、木登りもしますが、あまり高所まで登りません。生息地として好むのは、避難場所に利用できる密集した低木と、開けた牧草地が混在する環境です。

オスは18k㎡、メスは10k㎡ほどの行動圏をもち、オスの縄張りは複数のメスの縄張りと重なっています。樹洞や茂み・アナグマやコウノトリの古巣などを巣として利用します。

スペインオオヤマネコの餌の7〜9割がアナウサギです。しかし、ウサギの密度が低い場合は他のげっ歯類、アヒル、若い鹿も食べます。

視覚を頼りに獲物を発見し、3〜 4メートルの距離まで接近した後、喉に噛みついて捕えるのが狩りの方法です。成獣は、1日1羽程度のウサギを餌としますが、子育て中の母親の場合、1日約3羽のウサギを必要とします。

スペインオオヤマネコが生きていくためには、餌として十分なウサギが生息する草地と水辺や巣穴にできる場所を備えた森林が不可欠です。

スペインオオヤマネコの繁殖

スペインオオヤマネコの繁殖期は12〜2月で、スペイン中南部では出産のピークは3〜4月です。発情期を除いては単独行動がほとんどで、 子育ては主にメスだけが担います。

繁殖期にパートナーを見つけられない場合や妊娠しない場合、メスは再び発情期に入り、一年中いつでも出産することが可能です。

メスは、岩のくぼみや密集した茂み、木の洞などの小さな穴を繁殖巣として選び、60〜70日の妊娠期間を経て、2〜3匹を出産します。

生まれた子どもは20日ほど巣穴に留まりますが、その後、動き回るのに十分な広さを確保するため、母親は3〜4か所の他の巣穴に子どもを移動させます。これは、臭いが蓄積して捕食者に発見されやすくなるのを防ぎ、寄生虫の増殖から身を守るためにも効果的です。

幼獣は生後28日頃までには大人と同じものを食べるようになりますが、乳離れするのは生後3〜4か月後で、この頃に母親の狩りに同行できるようになります。自立し分散する時期は、生後8〜23か月です。

出生から独立するまでの死亡率は高く、生まれた2〜3匹のうち2頭以上生き残ることはほとんどありません。

独立したオスは最大30km の距離に分散し、メスは母親から縄張りを受け継ぐか、近隣の地域に住む場合があります。オスメスともに生後2年で繁殖可能となりますが、通常、自分の縄張りを獲得し定着するまでは繁殖しません。

適切な営巣場所や十分な餌が確保できない場合はもちろん、縄張りを確立し繁殖相手を見つけられない限り、スペインオオヤマネコは順調に繁殖することが難しくなります。

スペインオオヤマネコの分布・生息地

褐色部分:分布域
画像引用元:Iberian Lynx, IUCN Red List

スペインオオヤマネコは、イベリア半島のスペイン南西部に2個体群が残るのみとなってしまいました。ポルトガルでは1992年1月の確認を最後に、1990年代以降、大規模な調査によっても生息が確認されておらず、絶滅したと考えられています。

19世紀半ばまで、スペインオオヤマネコはイベリア半島全域に生息し、ピレネー山脈のスペイン・フランス国境付近で、東側に分布するユーラシアオオヤマネコと生息域が重なっていました。

1980年代までにスペインオオヤマネコの生息範囲は大幅に縮小し、現在はドニャーナ国立公園や保護区などの点在する限られた地域となっています。

スペインオオヤマネコの生息域は標高1,600m以下、主に標高400〜900mで、コルクガシなどの森林や松林です。

特に好む環境は、開けた草原にヘザーなど硬葉樹の低木林がモザイク状に分布する場所で、低木林を避難場所および繁殖地として、草原を狩場として利用します。

スペインオオヤマネコの生息数の回復には、適切な生息環境を守るだけでなく、生息適地をつなぎ、個体の分散や交流を確保していくことが必要でしょう。

スペインオオヤマネコが絶滅危惧種になった原因

スペインオオヤマネコは前世紀を通じて減少してきましたが、特に20世紀後半の20年間における減少率は80%以上にのぼります。

2002年時点の個体数は100頭以下、分布域はかつての約2%とされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでCR(Critically Endangered:近絶滅危惧)に掲載されました。

生息地の分断は続いている現状ですが、保護活動と生息地への再導入により個体数は10倍に増加し、レッドリストでのランクはEN(Endangered:絶滅危惧)に変更されています。

残された個体群はドニャーナ国立公園とシエラ・モレナの2つで、ともに集団サイズが小さいため、リスクに対する耐性が低い状況です。

以下に、スペインオオヤマネコが絶滅の淵に追いやられた主な理由を解説していきます。

アナウサギの激減

餌として依存するアナウサギの減少が、スペインオオヤマネコの減少に拍車をかけました。

スペインオオヤマネコの主な獲物であるアナウサギは、かつての1割未満の個体数しか残存していないと推測されています。アナウサギも、IUCNレッドリストでEN(Endangered:絶滅危惧)にランクされている絶滅危惧種です。

アナウサギは、1950年代の粘液腫症、1980年代の兎ウイルス性出血病など、度重なる感染症の流行により壊滅的に減少しました。さらに、2010年から猛威を奮い始めたのが、新たなウサギウイルス性出血病(RHDV2)です。

ある研究によると、このウイルスでアナウサギが約70%減少し、彼らを主食とするスペインオオヤマネコとイベリアカタシロワシの繁殖力は約65%と約45%に減少しました。

ウサギの生息密度の高いドニャーナ国立公園では、2012〜2014年の間に8割以上も減少したといわれています。

餌をアナウサギに依存しているスペインオオヤマネコは、十分なウサギが確保できなければ存続できません。

生息地の破壊と分断

スペインオオヤマネコの生存や繁殖に悪影響を及ぼすのが、生息地の改変と分断です。

生息地である原生林や低木地は、農地や下草のない植林地に転換されてきました。また、地中海性の低木林が失われた後、成長の早いユーカリなどの外来種が植えられると生息環境は変わってしまいます。

スペインオオヤマネコの営巣場所や身を隠す場所が失われ、餌動物の生息に適さない環境に変化すれば餌不足となるでしょう。

また、ダムや新しい道路の建設、都市開発などにより、生息地が破壊されています。また、スペインオオヤマネコは親から独立して分散する時に生息地の回廊を通路として使用するため、通り道が分断されると孤立してしまい繁殖相手を見つけられません。

さらに、交通量の増加により、ロードキルも増えています。

スペインオオヤマネコの保護には、開発から生息地を守ることはもちろん、個体同士が交流できるよう生息地どうしをつなげることも重要です。

違法な狩猟

スペインとポルトガルには、スペインオオヤマネコの狩猟を禁止する法律がありますが、違法な狩猟が根絶されたわけではありません。

多くのスペイン人にとって狩猟は生活の一部であり、生計を立てる術の一つです。 地元住民の多くはルールを守って狩猟を楽しみますが、スペインオオヤマネコが密猟され毛皮が闇市場で直接販売される場合があります。

また、仕掛けられた罠にかかって死んでしまうことも、スペインオオヤマネコにとって直接的な被害の一つです。

地球温暖化による気候変動

イベリア半島では近年、地球温暖化によると考えられる、干ばつや山火事などが生じています。こうした環境の急激な変化は、スペインオオヤマネコや餌動物であるアナウサギの生存を危うくする恐れがあります。

また、環境の変化によってウサギの病気が拡大する恐れも指摘されており、より長期的な視野に立った保全活動も必要とされています。

地球温暖化対策も、スペインオオヤマネコの保全と無関係では無いのです。

スペインオオヤマネコの保護の取り組み

2002年に94頭まで減少したスペインオオヤマネコですが、その後の保護活動が実を結び、今では生息数が回復傾向です。2023年の調査では、722頭の幼獣を含む2,021頭が確認されたと報告されています。

しかし、リスクが解消されたわけではなく、スペインオオヤマネコはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:絶滅危惧)に掲載された希少種であることには変わりありません。

ここでは、スペインオオヤマネコの保護の取り組みについてご紹介します。

法的な措置

スペインオオヤマネコは、保護のための国際条約や生息域の国内法の対象となっています。

希少種保護の国際的な取り決めである「ワシントン条約」(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では、スペインオオヤマネコは付属書Iに掲載されています。

よって、商業目的のための国際取引は全面的に禁止、学術目的の取引には輸出入国双方の政府が発行する許可証が必要です。

また、狩猟の犠牲となることを防ぐため、スペインでは1973年から、ポルトガルでは1974年から、法的に保護対象に指定しています。

しかし、このような法的措置も、1900年代後半のスペインオオヤマネコの急激な減少を止めることはできませんでした。

保全プログラム

2002年には、欧州委員会のプロジェクトとして、20を超す団体が結集しスペインオオヤマネコの保護に乗り出しました。

スペインオオヤマネコの個体数を安定させるためには、アナウサギの個体数回復、生息地の環境改善や連続性の確保、ロードキルや密猟の抑制、遺伝的多様性の維持などが必要です。

中でも、飼育下の個体を野生復帰させる「スペインオオヤマネコ域外保全プログラム」のもと、再導入の取り組みが成果をあげています。

最初の再導入は2009年で、アンダルシア州シエラ・モレナの野生個体が同じ州のグアダルメリャトに放たれました。再導入に選ばれるのは、適切な生息環境で、十分なウサギが生息し、地域住民にスペインオオヤマネコが受け入れられている地域です。

スペインオオヤマネコは飼育下でも容易に繁殖し、現在ではスペインとポルトガルの南部6か所に再導入され、多くの個体が新しい環境に適応し生き延びています。

また、遺伝的・数的に管理された飼育下の個体は、スペインオオヤマネコという種のセーフティーネットとしても重要です。

保全活動によりスペインオオヤマネコの個体数は徐々に回復し、2015年にはCR(Critically Endangered:近絶滅危惧)からEN(Endangered:絶滅危惧)に格下げされました。

それでも、将来アナウサギが減少し、スペインオオヤマネコが影響を受ける可能性がゼロになったわけではありません。今後も、保全の取り組みを継続し、注意深くモニタリングし続ける必要があります。

まとめ

ここまで、スペインオオヤマネコの特徴・生態・分布域・生息地・絶滅危惧種になった原因などについて、解説してきました。

スペインオオヤマネコはイベリア半島の生息地に行かない限り見られませんが、近縁のシベリアオオヤマネコは日本国内の動物園で間近で観察することが可能です。

シベリアオオヤマネコを飼育している動物園は次のとおりですが、最新情報はそれぞれの公式サイトでご確認ください。

私たちがスペインオオヤマネコのために何ができるかと考えた時、スペインオオヤマネコの保護活動をしている団体に寄付をしたり保護活動に参加したりすることが手段としてあげられます。

代表的な団体は次のとおりです。

また、日本にも、イリオモテヤマネコ・ツシマヤマネコという2種の絶滅危惧種がいることを忘れてはなりません。これら2種とスペインオオヤマネコは、食物連鎖の上位に位置し環境の変化や餌動物の増減の影響を受けやすい点で共通しています。

生態系のシンボルであるこれらの種を守ることは、地域固有の生物多様性に富んだ豊かな自然環境全体を守ることにつながるでしょう。

スペインオオヤマネコに関心をもち情報を得ることは、スペインオオヤマネコを守るための一歩といえます。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。