野生のカメを見かけたことはあるでしょうか?
主に本州で見られる野生のカメはニホンイシガメ、クサガメ、ミシシッピアカミミガメ、スッポンの4種でしょう。
しかし、この4種のうち2種類、実に50%が実は外来種なのです。ミシシッピアカミミガメはアメリカ原産のカメで、クサガメも中国にルーツを持つ外来種であると言われております。(クサガメはかなり昔から日本にいるため、定かではないが外来種であると言われている。)
スッポンはほぼ水中で暮らすカメであるため、ここの競争にはあまり入り込まないのですが、ニホンイシガメは巻き込まれています。今回は日本各地で見られたものの、数を大きく減らしてしまった在来種、ニホンイシガメについて紹介いたします。
「ニホンイシガメ」とは
ニホンイシガメはイシガメ目イシガメ科に属するカメで、甲長は最大20センチ程度のカメです。オスよりもメスのほうが大きくなり、オスは15センチ程度とメスよりも一回り小さいです。
甲羅の色は橙褐色、黄褐色、暗色とかなり個体差が多いですが、茶色っぽい個体が一番多いです。また幼体は「ゼニガメ」とも呼ばれます。ポ○モンじゃないですよ!
河川や湖沼、水田、池、湿原などにつながる水路に多く生息し、やや流れのある環境を好みます。半水生で、活動は主に水中ですが、多く生息している環境では何匹かが並んで甲羅干しをする姿を見かけます。
耐寒性が強く、水温3〜5℃でも活動する事があり、冬眠も水中の石の下や、泥の中、落ち葉の下などで行います。
基本的には雑食で魚類、カエル、これらの卵や、昆虫、エビ・カニ、カタツムリなどの陸生巻き貝、ミミズ、動物の死骸、水草、水生植物、藻類など多種多様なものを食べます。農耕地では水路に流された農作物を食べる姿も目撃されています。
繁殖方法は卵生であり、春にオスはメスの前で前足を外側に向けて高速で振ることで求愛を行います。産卵は6〜8月の夏に行われ、メスは10センチ程度の穴を掘るとそこへ10個ほどの卵を産みます。卵は70日で孵化し、生まれた赤ちゃんは3〜5センチの幼体のまま冬眠をします。
ニホンイシガメの寿命は非常に長く、30年程度と言われています。成長も遅く、20センチほどになるまでは10年近くかかります。
「ニホンイシガメ」の分布・生息地
ニホンイシガメはその名前の通り、日本固有種で具体的な分布は本州、四国、九州、隠岐諸島、五島列島、対馬、淡路島、佐渡ヶ島、種子島、壱岐島などの本州周辺の離島に生息しています。
ニホンイシガメは止水域よりも流水域を好むカメであり、池や湖沼などにつながる河川域、水路で多く見られます。
全国的にも広く分布するニホンイシガメですが、現在はその数を減らしてしまったこともあり、見る機会は少なくなっています。
「ニホンイシガメ」が絶滅危惧種となった理由
ニホンイシガメは現在「準絶滅危惧種」に指定されています。今すぐ保護活動をしなければ絶滅してしまうというわけではないですが、その個体数が減少傾向にあり、環境に配慮しなければいけないという段階にあります。
ニホンイシガメが減少してしまった原因には、環境変化、外来種問題が関係しています
環境変化
日本の田園地域では数十年前まではニホンイシガメの暮らしやすい風景が広がっていました。素掘りの水路、豊富な水生植物、緩やかな流れの水域が多くありました。
しかし、用水の安定供給や水害の防止のためにそういった水路はコの字のコンクリートの水路に変化していきました。そういった場所では流れがあまりにも急で、水生植物が生えないために餌となる生物もろくに生息できない状況になってしまいました。
加えて、素掘りの水路では土がある土手のようになっている場所もあるため、ニホンイシガメが上陸しやすく、そういった場所に産卵もできました。
しかし、現在のコンクリート水路に入ってい待ったら最後、ニホンイシガメは上陸することすらままならず、衰弱して死んでしまうというケースもあります。
また、開発によってそもそも水辺が消失しているというのもニホンイシガメの減少に拍車をかけています。そういったニホンイシガメの生息地の減少による生息数の減少が顕著です。
外来種問題
ニホンイシガメを最も脅かす問題、それが外来種問題です。
まず驚異となるのはミシシッピアカミミガメです。通称ミドリガメと言えば分かる方も多いのではないでしょうか。
このカメはアメリカ原産のカメでニホンイシガメよりも一回り大きくなるカメです。甲長30センチ、重さは3キロになるまで成長するカメで、飼育していたらかなり大きくなってしまった方もいるのではないでしょうか。
このカメはもともとはペットとして飼育されていたカメが野外に放流、結果的に強い生命力と繁殖力で日本に定着したものです。
なぜ、そこまでミシシッピアカミミガメを手放す人が増えたのか、それは1980年代、ミシシッピアカミミガメがサルモネラ菌を持つという報道がニュースで流れたからです。
サルモネラ菌自体は正直、どこにでもいる菌で、生卵で食あたりを起こしたり、豚の生焼けでの食中毒の原因になったりする菌です。もちろん、金魚などを飼育していて汚くなった水の中にもいるわけで、菌の中ではどこにでもいるメジャーな菌なのです。
しかし、マスコミによる聞き慣れない菌の名前や、食中毒などの驚異が連日報道された結果、ミシシッピアカミミガメが大量に野外に投棄される事態となってしまいしました。ミシシッピアカミミガメは驚異的な生命力で日本の気候にも順応し、ニホンイシガメを越える繁殖力でその数を爆発的に増やしていきました。
もちろん、そんな爆発的な数で増えた場合、水域のもキャパシティがあるので生息できる数の限界を超えてしまうわけです。
そうすると、生存競争が起こります。ニホンイシガメとミシシッピアカミミガメが生存競争をした場合、甲羅干しする場所もより体格の大きいミシシッピアカミミガメが有利、餌もより多く食べるミシシッピアカミミガメのほうが有利と、ニホンイシガメはミシシッピアカミミガメにより住処を追いやられてしまいました。
そして次に起こったのはクサガメとニホンイシガメの交雑です。住処を追いやられ、クサガメとも交雑する確率が高くなってしまったこともニホンイシガメ本来の数が減っている原因です。こういった遺伝子汚染も問題担っています。
さらに外来種により捕食されるケースも出てきています。ニホンイシガメを捕食する外来生物、それはアライグマです。
西日本を中心に増えていったアライグマ、これもペットとして輸入されたものが逃されて野外で増えたものです。現在、日本国内には数万という数のアライグマが生息しているとされ、作物の食害だけでなく、希少生物を食い荒らすといった問題も報告されています。
実際、ニホンイシガメがアライグマに捕食される問題も多く挙げられ、千葉県での調査では100を越えるニホンイシガメの死骸が土手で発見されました。その死骸の特徴は、ほとんどが甲羅に外傷がなく、頭や足、尻尾に傷があったり、それらが欠損しているといったものでした。
カメの死骸の周辺にあった足跡から犯人がアライグマであると特定され、センサーカメラ等を設置した結果、アライグマが越冬中のカメを掘り出して襲う姿も撮影されたとのことでした。
「アライグマ ラスカル」というアニメの影響もあり、アイドルのような扱いで人気になったアライグマですが、実際は人にはなつきにくく、凶暴な面もあったことから野外に投棄されるようになりました。
アライグマは食害だけではなく、病気や寄生虫の媒介も問題視される外来生物なのです。
このように数々の外来生物によってニホンイシガメは生息地を追われ、住処を失っています。
そういった外来生物をニホンイシガメの生息域から除去するなども行っていかなければいけません。
「ニホンイシガメ」の保護の取り組み
ニホンイシガメはその名の通り、日本にしかいない固有種であり、本州においては数少ない在来の淡水生の亀です。そのため、日本各地で保護団体が設立され、ニホンイシガメを守っていこうという動きが盛んになっています。
千葉県にはニホンイシガメ保護対策協議会があり、前述の理由から数を減らしているニホンイシガメを守るために2013年に発足しました。
具体的な活動としてはニホンイシガメの現象の原因をつきとめ、それに対しての対策を講じていくというもので、アライグマに関する活動も行っています。
アライグマの駆除の要請や高校生と協力し、ニホンイシガメの住みやすい環境を人間の手で保全していくといったものもあります。
ニホンイシガメの棲息地を守るために、水辺の草刈りを行うことで産卵するための土手を造成したりも行っています。
またニホンイシガメに対する認知を高めることで住民全体でニホンイシガメを守っていこうとイベントを開いたりすることで市民と交流したり、乱獲を防ぐために定期的にパトロールするなど、様々な活動を行っています。
またニホンイシガメを守るためのNPO法人も設立され、ニホンイシガメの生息地にすみ着いた外来生物を駆除するなどの活動も行われております。
特にミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニといったニホンイシガメの餌となる植物や魚類などを食い荒らす競合生物を駆除する試みも行われております。
そのほかには生息環境の保全として泥を排出することで、水深が浅くなり、水質が悪化しやすくなる環境を未然に防いだり、水面を覆ってしまうほどに繁茂した水生植物を刈り取ることで水中に光が届くようにし、水中での植生に多様性を与えるといった活動も行われています。
このようにニホンイシガメは準絶滅危惧種と現在では、まだすぐに絶滅の危険性は低いながらも保護活動が盛んに行われています。こういった保護活動による影響がすぐに表れる点や、対策のしやすさもまた盛んに行われている理由の一つでしょう。
各種生物にこのような保護活動の手を広げることは難しいですが、ニホンイシガメに対する保護活動で保全された環境には再び新たな在来種が戻ってくることも多くあります。
そういった副産物もたくさんあるため、保護活動は様々な面でメリットをもたらすでしょう。