700年前に人間がニュージーランドの島へ到着する前に、その土地は鳥類が頂点でした。
隔たれていた島には陸上の哺乳類がいないため、250種以上の鳥類が独特な生態系を作っていました。
このような状況の中で、ハーストイーグルは食物連鎖のトップ。
肉食のハーストイーグルにとって、主食はジャイアント・モアという史上最大の飛べない鳥でした。
ジャイアントモアは体高が最大3.6m、体重が約250kgという、ハーストイーグルのおよそ15倍ほどの重さを持つ鳥です。
ジャイアント・モアの骨にはハーストイーグルの爪の跡が残っていることからも、この説は確かです。
開けた場所にある孤立した木の上などから狙いを定め、急降下しながら獲物を捕らえて、この時の速度は約時速80kmだというから、逃げも隠れもできないスピードだったと考えられます。
他の捕食者がいなかったため、食料を独占できたことも彼らにとってはとても都合の良いことでした。
唯一の脅威は、他の獲物がやってきて縄張りを奪い合うことくらいです。
ハーストイーグの身体的特徴
猛禽類の中でも最大級の大きさであることが分かっています。
体長と体重では、生きている最大のハゲワシよりもさらに大きいです。
そして、体高が雄よりも雌のほうが大きいことが特徴です。
雄の推定体重は9kgから12kgほどに対して、雌の場合は14kgから15kg。
雌が大きい確証できる理由はまだ解明されていないが、子供を育てる上で、大きいほうが有利であるからだと考えられています。
対して雄は、狩りで有利になるために雌よりは軽く、俊敏に動ける体に進化したと考えられます。
翼
ハーストイーグルの翼は広げると3mほどの長さで、それでも体高と比較すると短めの翼です。
翼の短さは木の間や翼を広げるスペースがあまりない場所での飛行に適していました。
翼が大きくなくても揚力を生み出すのに役立つように、尾翼の面積が大きくなっています。
尾翼が大きければ、より安定した操縦性の高い低速飛行が可能になり、樹木の間を飛行しながら俊敏な旋回が可能になります。
ハーストイーグルの先祖は重い体重のために、滑走をしてから飛ぶスタイルでしたが、ハーストイーグルは滑走が必要ないほど即座に飛ぶように進化してきました。
これは、彼らの持つ短い翼・翼の筋肉・強力な脚が関係しています。
爪
爪は、前足のつま先の長さが約5cmほどで、後足のつま先の爪は10cmほどもあったといい、これらの爪は、獲物を殺すための重要な武器となっていました。
体色
ハーストイーグルの毛の色を断定できる証拠はありません。
モチーフにされている紋章の中のハーストイーグルは、熱帯にいる鳥のようにとてもカラフルな毛色で描かれていますが、それは誤りだと考えられます。
というのも、ニュージーランドにいるほとんどの鳥は明るい色をしていません。
専門家は現在、世界中で発見されている鷲の毛色と同様に、落ち着いた茶色か、茶色がかった灰色であった可能性が高いと考えています。
視力
視力は約5.0ほどあったと言われ、これは人間の4倍の距離を見通すことができるほどです。
これほどの視力があれば、上空からでも地上にいる獲物を即座に発見できたと考えられます。
ハーストイーグルの分布・生息地
祖先はヒメクマタカ属であり、ハーストイーグルの体高と比較してもかなり最小のタカです。
遺伝学的証拠は、更新世初期にオーストラリアのヒメクマタカ属から進化したことを示しており、これまでに記録されている中で最も急速な進化の大きさだと言われている。
ハーストイーグルの始まりは、祖先のヒメクマタカ属が周囲から離れた島に100万年前ほどに住み着いたことから始まります。
周囲になにもない島であったので、敵がいなかったことにより自由に生活でき、それによってハーストイーグルは体高もどんどん大きく成長していきます。
これは、数千年の間に質量が20倍以上にも膨れ上がったということになります。
生息地
ハーストイーグルはニュージーランドの南島に生息していました。
ハーストイーグルの骨が南島の数十カ所で発見されていることからも、南島の海抜から亜高山帯までの森林・森林・低木林に生息していたと考えています。
しかし最後の氷河期の間に生息範囲は明らかに減少してしまい、南アルプスの東側の山岳地帯に後退します。
1800年代後半からのマオリ族の言い伝えによると、絶滅するまでは山の中に住んでいたという記録もある。
ハーストイーグルの絶滅した原因
モアの絶滅が大きな理由
1280年頃に南島に到着したマオリ族は、ジャイアント・モアを含む大型の飛べない鳥類を大量に捕食し、最終的には1400年頃までに絶滅させます。
主な獲物を失ったことで、ハーストイーグルもほぼ同時期に絶滅したと考えられます。
最初の入植者は、長期的な居住に適した土地を作る必要があったため、広大な森林が伐採され始め島の多くの動物の生息地が破壊されました。
また、マオリ族が連れていたネズミも、島の動物たちの絶滅に関係しています。
ネズミたちは島にいる鳥をほとんど食べ尽くしてしまい、ネズミ自身も増殖。
この増殖が今もなお拡大していることが、現在の南島を保全する上での課題だということです。
それまで成り立っていた島の生態系を狂わせてしまったマオリ族は、ことの重大さに気づき、森の中で鳥を狩ることを禁じます。
迫害があった?
マオリ族が、ハーストイーグルを迫害していたのか、それとも崇拝していたのかは議論の的となっている。
なぜなら、世界中のあらゆる文化の中には、ハーストイーグルのような捕食者が人間に迫害される文化もあれば、崇拝される文化もあるからです。
おそらくマオリ族がハーストイーグルを狩猟したことは、ハーストイーグルがマオリ族と食料を争ったからだけではなく、畏敬の念を込めて狩猟したのではないかとも言われています。
オーストラリアの先住民、アボリジニの文化では、強力な捕食者の体の一部を集めて身につけると、その動物の力が身に着ける人に伝わるという伝説がある。
ハーストイーグルは、1400年頃に絶滅したとされているが、この時期はジャイアント・モアが絶滅した時期であり、ハーストイーグルがこれより生き延びていたことは考えられないという。
それほど、ジャイアント・モアとハーストイーグルは共存していたということだ。
1870年台の目撃情報
1870年代に、探検家が非常に大きな猛禽類2羽(ハーストイーグル)を射殺して食べたという主張がある。
しかし、当時のマオリ族の人々は、探検家が島に来るはるか昔にハーストイーグルの姿は見ていないというから、この猛禽類は恐らくハーストイーグルではない。
ハーストイーグルの生き残りの可能性
残念ながら、ハーストイーグルは完全に絶滅してしまい、生き残りはいない。
彼らを見たという目撃情報は多々あるが、決定的な証拠は何一つない状況だ。
遺伝子学の研究
実は、ハーストイーグルの先祖がヒメクマタカだったということは、2005年の研究で明らかになったことであった。
マクマスター大学の人類学者マイケル・バンズと、オックスフォード大学の研究者たちは、約2000年前のハーストイーグルの骨からDNAを抽出したことから研究を始めた。
当初の研究目的は、ハーストイーグルとオーストラリアのウェッジテールイーグルという、これまた大型の鳥との関係を調べることが目的だったという。
しかし、DNAの結果がまさかの、ハーストイーグルがヒメクマタカ属から進化したというあまりにも驚くべき結果だったため、最初はその真偽を疑っていたという。
そして研究を重ねるうちに、ヒメクマタカが島で生息している間に20倍以上も膨れ上がり、ハーストイーグルへと進化したことが分かった。
現在も研究に奮闘している人や機関がわずかながらいるが、今のところは大きい研究結果は出ていない。
共存していた、ジャイアント・モアを研究することで、ハーストイーグルの詳しい生態なども明らかにしようとしているが、まだまだ未知数だということだ。