「巨大な雲のようでもあり、また吹雪のようでもあり、蒸気で太陽を遮っていた……」
51万平方キロメートルを覆った、ある動物の大群。
蝗害(こうがい)の中では過去最悪と言われた被害をもたらし、人々の暮らしを脅かしたのは「ロッキートビバッタ」という小さなバッタでした。
しかし、12兆5千億匹ものバッタの群れは、それから30年たたずして、地球から忽然と姿を消してしまいます。
驚異的な個体数を持ってなお絶滅してしまった彼らの最後は、いったいどんなものだったのか。
今回はそんなロッキートビバッタの姿にせまっていきます。
「ロッキートビバッタ」とは
身体的特徴
現存する種の中では、アカアシトビバッタに近い見た目をしていました。
成虫であっても平均体長が20~35mmと小さく、長い翅を持っているのが特徴でした。
この翅は広げると腹部よりも3割程度長くなったと言います。
もともとの体色は緑色ですが、大量発生すると褐色に変化して食欲と繁殖力が増し、気質も獰猛なものになったそうです。
生態的特徴
一回の産卵でメスは100匹程度の卵を産みます。
生後6~8週目までは翅がない姿をしているため、這うようにして移動していたそう。
干ばつを引き金にして隔年で大量発生し、蝗害を引き起こしました。
しかし空気の乾いた土地を好み、多湿には適合できなかったため、移動先の土地ではうまく繁殖することができませんでした。
静止した状態で足をこすり合わせることで音を鳴らし、この音で仲間同士の意思疎通を図っていました。
「ロッキートビバッタ」の分布・生息地
高く険しいロッキー山脈の東側斜面で、彼らは暮らしていました。
高度600mから3000mの乾燥地帯です。
大発生すると気流に乗って大群で移動していましたが、定住はせず、山沿いのこの土地に戻ってきていたという説もあります。
「ロッキートビバッタ」の絶滅した原因
ロッキートビバッタはあまりに数が多く、人々の脅威になり得る存在でした。
そのため1877年には「グラスホッパー法」なる法律(16歳~60歳までのものを強制的に駆除作業に参加させるというもの)や懸賞金の制度まで作られましたが、どれも彼らの勢いを止めることはできませんでした。
しかし、最後の大発生から30年を待たずして突然絶滅してしまったのです。
開拓者によって彼らの繁殖・産卵場所の環境に変化がもたらされたためであるとか、バイソンやビーバーの数が減ったことで草原の生態系に影響を及ぼしたためであるとか、理由は諸説あるのですが、どれ一つとして断定に足るものはありません。
こうしてロッキートビバッタは、人々の生活に大きな爪痕と、北米大陸における生態学の大きな謎を残したまま、1902年に絶滅してしまいました。
「ロッキートビバッタ」の生き残りの可能性
2005年ごろには、ロッキートビバッタは絶滅したわけではなく、姿を変えて現存しているという主張もありましたが、後の研究で否定されています。
これらのことからも、彼らはすでに絶滅してしまっていると言っていいでしょう。
また、20世紀後半に溶けた氷河の中から見つかったロッキートビバッタの個体を用いて、今なお研究が進められています。
しかし絶滅の原因の解明にはまだ至っていません。
まとめ
空を覆う巨大な一群。
いくら倒そうと足掻いても意に介することすらなかった彼らは、人の手のあずかり知らぬところで静かに滅んでいきました。
どれだけ脅威であろうとも、結局は自然の一部に過ぎず、数が増えれば間引かれ淘汰されゆくもの。
そしてそれは人間とて同じことです。
「神の見えざる手」が、気まぐれにわたしたちを攫うことがあるかもしれないと思うと、少しだけ怖いような気がしませんか。