「野生のパンダっているの?」
「日本で生まれたパンダの赤ちゃんを中国に返すのはなぜ?」
ジャイアントパンダは、ぬいぐるみのような姿と愛くるしい動きで、見る人を癒してくれる動物園の人気者です。
2017年に恩賜上野動物園でシャンシャンが産まれ、その成長が日本中の注目を集めてきました。
ジャイアントパンダは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでVU(Vulnerable:危急)に掲載されている野生動物です。
ここでは、次のことについて解説します。
- ジャイアントパンダとは
- ジャイアントパンダの分布・生息地
- ジャイアントパンダが絶滅危惧種になった理由
- ジャイアントパンダの保護の取り組み
最後まで読んでいただくと、ジャイアントパンダの特徴・生態・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。
「ジャイアントパンダ」とは
ジャイアントパンダは、食肉目クマ科ジャイアントパンダ属に分類されます。
「パンダ」という言葉が種名につくのはレッサーパンダとジャイアントパンダの2種ですが、初めに「パンダ」として認知されていたのはレッサーパンダです。
その後、より大きくて白黒のパンダが発見されると、それまで「パンダ」と表されていた動物は「lesser(レッサー:より小さい)」をつけて「レッサーパンダ」とされました。
白黒で大きい方は「Giant(ジャイアント:大きい) Panda」となり、現在「パンダ」というとジャイアントパンダを指します。
中国語の表記では、ジャイアントパンダが「大熊猫」、レッサーパンダが「小熊猫」です。
ここからは、ジャイアントパンダの特徴や生態についてご紹介します。
ジャイアントパンダの特徴
ジャイアントパンダは体長120~180cm、体重はオスが100kg・メスが90gで、群れを作らず単独行動を好む動物です。
ジャイアントパンダの体色は目の周り・耳・肩・両手両足が黒色で他はクリーム色となっており、生息地の雪深い環境ではカモフラージュ効果があることが分かっています。
寒さに強く冬眠しないところが他のクマ科の動物と異なる特徴です。
木登りが得意で休んだり危険から逃れたりするために木に登りますが、下りるのが苦手でよく落ちます。
動物園での姿からは想像しにくいですが、ジャイアントパンダは山岳地帯で暮らす野生動物なのです。
ジャイアントパンダの食べもの
ジャイアントパンダは主にタケの葉・枝・茎やタケノコを食べますが、昆虫やネズミを食べることもあります。
動物園では手に入る品種のタケ類とタケノコのほか、ニンジンやリンゴも与えているとのことです。
前足には一列に並んだ5本指と向かい合って「第6の指」といわれる突起があり、これを上手く使ってタケを持って食べます。
太いタケでも嚙みくだいて食べられるほど強いあごの持ち主ですが、胃腸はタケなど繊維質のものを消化するのには不向きです。
あまり栄養を吸収できないので1日に10㎏以上のタケを食べ、ほぼ同じ量がほとんど消化されず排出されるため、ジャイアントパンダのフンは臭くありません。
ジャイアントパンダは、消化されにくいタケを主食として選ぶ進化をしてきた不思議な動物なのです。
ジャイアントパンダの繁殖
ジャイアントパンダの繁殖期は3~5月で、その中でもメスの妊娠可能性が高くなるチャンスは1~3日だけです。
この限られた期間に妊娠に成功し胎児が順調に育つと、メスは約5か月後に木のうろや洞窟で1~2頭を出産します。
産まれたばかりの赤ちゃんは無毛で100~200gと非常に小さく、目も開かず自分で母乳を飲めません。
母親は出産から3ヶ月以上、世話なしでは生きていけない赤ちゃんを手のひらで守るように抱いて育てるのです。
ジャイアントパンダの赤ちゃんは生後1週間で体毛が生え始め、1~2ヶ月で目が開き3か月ほどで歩けるようになります。
1歳で体重30㎏まで成長し、繁殖可能となるのはメスで4~5歳、オスで6~7歳です。
ジャイアントパンダは妊娠可能な期間が短いだけでなく、赤ちゃんが非常に未熟な形で産まれることからも繁殖が難しいことがうかがえます。
「ジャイアントパンダ」の分布・生息地
ジャイアントパンダの生息地は中国の中でもチベット高原の東端である四川(しせん)省・陝西(せんせい)省・甘粛(かんしゅく)省の一部のみです。
四川省の省都である成都から車で40分から2時間の場所に、パンダを観察できる施設があります。
近年では化石の発見により、ジャイアントパンダの祖先がかつて低標高の地域にも存在し、ミャンマーやベトナムなどにも広く生息したことが明らかになっています。
ジャイアントパンダの分布は、長い年月をかけて中国西部へと徐々に狭められていったのです。
「ジャイアントパンダ」の生息地
ジャイアントパンダの生息地は標高1,300~3,500mの山岳地帯で、湿気の多い常緑・落葉広葉樹の森林や針広混交林でタケやササが生育できるところです。
ジャイアントパンダが生きていくためには、餌として十分なタケが確保できる竹林と安心して休むための高木が必要となります。
現在、野生ジャイアントパンダの約44%が生息しているのが、四川省と甘粛省に位置する岷山(みんざん)・相嶺(そうれい)山地・涼山(りょうざん)山地で、27の保護区があります。
陝西省の秦嶺(しんれい)山脈には佛坪(ぶつへい)自然保護区と長青自然保護区があり、年間を通して多湿で竹林が豊富なためジャイアントパンダにとって最適な環境です。
このようにジャイアントパンダの生息地は限られており、環境維持のためにさまざまな取り組みがなされています。
「ジャイアントパンダ」の生息数
2015年の中国政府発表によると、野生におけるジャイアントパンダの推定個体数は1,864頭です。(WWFジャパン)
1970年代には約1,000頭と危機的状況でしたが、保護対策の成果により2000年代には少しずつですが回復しています。
中国内外の保護施設や動物園における飼育下のジャイアントパンダは、2022年現在で673頭です。(Science Portal China)
50年におよぶ保護対策が成果をあげ、ジャイアントパンダの生息数は増加傾向となったため、2021年に中国政府は絶滅危惧のランクを下げました。
しかし、生息環境の悪化などジャイアントパンダの絶滅脅威は未だ続いていると専門家は警告しています。
「ジャイアントパンダ」が絶滅危惧種となった理由
19世紀にジャイアントパンダの生息地が急減した理由は、中国の人口増加と生息地の破壊です。
それ以前もジャイアントパンダは天敵から逃れたり餌の取り合いを避けたりするため、徐々に生息地を高山に移していったと考えられています。
しかし人間が森林を切り開きながら生活範囲を広めていったことが、ジャイアントパンダの生息地と生息数を大きく減少させたことは明らかです。
ジャイアントパンダを絶滅危惧種に追いやった原因について、以下に解説していきます。
森林破壊による生息地の分断
高速道路やダムの建設などの開発により森林が破壊され、ジャイアントパンダの生息環境の99%が失われたといわれています。
生息環境の喪失だけではなく、道路などの人工物により分断されてしまうことも問題です。
約20年前には18あったパンダの生息地が2016年には33ヵ所に細分化され、33箇所の生息地のうち生息数が10頭以下の場所が18ヵ所だったことが調査で分かっています。
集団が小さくなると絶滅の危険度が増すことが知られており、各生息地を行き来できるように回廊(コリドー)でつないで遺伝的多様性を確保する取り組みが必要です。
開発によって破壊した森林を回復させ、生息環境をつなぐことが求められています。
ターキンによる食害
ジャイアントパンダの生息環境に悪影響を及ぼしているのが、同じく絶滅危惧種であるウシ科のターキンです。
ターキンは牛と山羊をミックスさせたような姿の動物で木の皮を剝ぎ取って食べるため、樹木を弱らせてしまいます。
ジャイアントパンダに適した環境はターキンにとっても住みやすく、問題となるのはターキンの増加により高木が枯死して減少する植生変化が起こったことです。
ジャイアントパンダが安心して休んだり子育てしたりするためには高い木が必要であり、高木の減少は生息環境の劣化につながります。
ジャイアントパンダに最適な生息環境を維持しながら、絶滅危惧種のターキンと共存していく方法を探っていかなければなりません。
イノシシによる食害
ジャイアントパンダにとって脅威になっているのがイノシシの存在で、生息範囲が広く生息数も多いためターキン以上に大きな影響をおよぼしています。
最も大きな問題は、ジャイアントパンダにとって貴重な食糧であるタケノコを根こそぎ食べてしまうことです。
タケノコは特に妊娠中の母親にとって欠かせない栄養源であり、タケノコ不足はジャイアントパンダの繁殖に影響する可能性があります。
また、イノシシは豚コロナなどウィルスに感染していることもあり、病原菌の媒介という側面からもジャイアントパンダへの悪影響が心配です。
実際にイノシシの生息数が少ない場所でジャイアントパンダの生息数が増加していることが調査で分かっています。
イノシシも同じ野生生物でありコントロールは難しく、簡単に解決できる問題ではありません。
地球温暖化による餌不足
米国と中国の研究チームは、地球温暖化が進めば今世紀中にジャイアントパンダの餌であるササが激減すると発表しました。
世界の平均気温が産業革命前と比べて4度上がる場合は、ササは完全に消滅するか半分以下に減るとの予測となっています。
平均気温の上昇が3度の場合でも、ササの分布がジャイアントパンダの現生息地から離れた地域へと変化し、餌場として十分な広さの竹林にならないという予測です。
地球温暖化は、ジャイアントパンダの生息に不可欠なササにも影響をおよぼす可能性があるのです。
「ジャイアントパンダ」の保護の取り組み
ジャイアントパンダは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで2016年よりVU(危急)とされています。
それ以前はもう1段高いランクであるEN(絶滅危惧)でしたが、生息地の保全対策により10年間で個体数が17%増加したことなどが理由でランクが引き下げられました。
また、中国国内においても2021年にジャイアントパンダの位置づけが「絶滅危惧種」から「危惧種」に下げられています。
50年におよぶ保護活動により生息地の保全が進み、ジャイアントパンダの生息数が1,800頭まで回復したことを踏まえた決定です。
しかし専門家は「ジャイアントパンダの生息環境が厳しいことに変わりはない」と未だ危機感をもっています。
中国での保護対策
ジャイアントパンダは、中国が野生生物保護法に基づき「中国国家一級重点保護野生生物」に指定されています。
1970年代に約千頭にまで生息数が減った状況を打開するために、中国政府は生息地の約3分の2を自然保護区に指定し、密猟者を取り締まるなどの対策を始めました。
中国国内では6ヵ所の研究施設と23ヵ所の動物園(2007年現在)において、保護活動・繁殖研究・観察などが継続中です。
また、最先端の技術による人工繁殖にも成功し、飼育下のジャイアントパンダを野生に戻す研究も行われています。
ジャイアントパンダの生息数増加と絶滅危惧のランク引き下げは、中国政府による50年におよぶ保護政策の成果です。
世界各国での取り組み
ジャイアントパンダは、ワシントン条約附属書Ⅰに掲載されており商業目的の輸入・輸出が禁止されています。
また、ジャイアントパンダは中国のほか21の国と地域において26の動物園で70頭が飼育され、各動物園が飼育・繁殖・研究の成果を共有し協力し合っています。
日本において日中共同の繁殖研究を目的としてジャイアントパンダが飼育されているのは、次の3か所です。
いずれのジャイアントパンダも「繁殖及び研究を目的とした貸与」という形で、中国の研究施設との連携・協力のもとで大切に飼育されています。
WWFの保護活動
ジャイアントパンダはWWF(世界自然保護基金)のシンボルマークとなっているとおり、WWFが目指す自然保護活動の象徴的な存在です。
WWFは1981年からジャイアントパンダの調査を実施し保護活動を続け、現在では1万6000平方キロもの生息地が保護区に指定されました。
WWFの活動は、保護区の環境維持のほか分断された生息地をつなげるためのコリドーの創出や膨大な調査結果のデータベース整備などです。
また地域住民の理解を得ることで、ジャイアントパンダを保護しながら住民の暮らしを豊かにしていくことを目指しています。
私たちにできること
ジャイアントパンダの生息数が増加傾向にあっても、生息地の環境がいまだ厳しい状況であることは変わりません。
動物園や研究施設で産まれて人工飼育下で育ったジャイアントパンダが順調に野生復帰するためにも、生息地の自然環境の保全が不可欠です。
世界中で愛されているジャイアントパンダを絶滅させないために、生息地の自然環境や地球温暖化について多くの人が関心をもち理解と協力が広がっていくことが望まれます。
ジャイアントパンダのことを知ることも、ジャイアントパンダを守るための一歩です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。