「レッサーパンダってパンダなの?」
「野生のレッサーパンダはどこにいる?」
レッサーパンダは、丸い顔とふさふさした大きな尻尾が愛らしい動物園の人気者です。
野生生物としては希少で、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:絶滅危惧)に掲載されています。
最後まで読んでいただくと、レッサーパンダの特徴・生態・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。
「レッサーパンダ」とは
レッサーパンダは食肉目レッサーパンダ科レッサーパンダ属に分類されます。
「食肉目」は肉食動物のグループですが、レッサーパンダは限りなく草食に近い雑食性です。
レッサーパンダ科は1種のみで構成され、「シセンレッサーパンダ」「ネパールレッサーパンダ(ニシレッサーパンダ)」の2つ亜種に分けられます。
日本国内の動物園で多く飼育されているのは、シセンレッサーパンダの方です。
「パンダ」という言葉がつくのはジャイアントパンダとレッサーパンダの2種ですが、最初に「パンダ」として認知されていたのはレッサーパンダでした。
30年後により大きくて白黒のパンダが発見されると、それまで「パンダ」だった動物は「lesser(レッサー:より小さい)」をつけて「レッサーパンダ」とされたのです。
中国語の表記ではジャイアントパンダが「大熊猫」、レッサーパンダが「小熊猫」となります。
英語ではred panda(赤いパンダ)です。
「レッサーパンダ」の特徴
レッサーパンダは体長50〜60cm、体重5〜6kgで全身をふさふさした毛で足の裏まで覆われています。
レッサーパンダの体重は猫と同じくらいですが、長い毛のせいでネコよりも大きく見えます。
全身は明るい栗色で頬と目の上・鼻の周囲が白色、手足と腹部は黒色です。
長さ30〜50cmもあるしま模様の尻尾が特徴的で、寒さから身を守るために体に巻きつけることもあります。
シセンレッサーパンダは体が大きめで模様が濃く、ネパールレッサーパンダは顔が白っぽいことが見分けるポイントです。
前足の親指の付け根には骨の発達した「第6の指」と呼ばれる突起があり、ものを掴んで食べたり木に登ったりする時に役立ちます。
レッサーパンダとジャイアントパンダは外見がかなり異なりますが、他の動物には無い「第6の指」をもつところが共通点です。
樹上での生活に適した体
レッサーパンダは樹上で 休息し移動するなど木の上で生活しており、樹上生活に適した身体をもっています。
体と同じくらいある長い尻尾は木の上でバランスを取って歩くのに役立つほか、足裏の毛は滑り止め効果があり、鋭い爪と第6の指のおかげで登り降りが得意です。
また腹部と手足が黒色であることにより、地上から見上げた時に樹の陰にとけ込んで天敵から見つかりにくくなっています。
レッサーパンダの天敵はユキヒョウ・オオカミなどの肉食獣とワシ・タカなどの猛禽類などで、地上に下りることは高リスクです。
日中は天敵から身を守るために多くの時間を木の上で寝て過ごし、夕暮れ時や早朝に活発に動き回ります。
レッサーパンダは、進化の過程で森林や竹林での樹上生活に適応した動物なのです。
「レッサーパンダ」の食べもの
野生のレッサーパンダの主食はタケやササの葉・タケノコで、果物・どんぐり・キノコも食べます。
ほとんど植物食ですが、鳥の卵や小動物・昆虫を食べることもあるので雑食性です。
ジャイアントパンダと同じように顎が強く、第6の指を使って食べものを上手くつかんで口に運びます。
レッサーパンダの生息地にはタケやササ以外の餌資源があまり無く、進化の過程でタケやササを食べる性質になったというのが通説です。
「レッサーパンダ」の繁殖
通常レッサーパンダは単独生活ですが1〜3月の繁殖期だけ集まってペアを作り、縄張りをめぐってオスもメスも争います。
オスがお尻や足裏にある臭腺を地面にこすりつけるのは、強い匂いをつけ縄張りをアピールするためです。
ライバルに出会った時は、後ろ足で立ち上がって自分を大きく見せ威嚇します。
メスは90〜150日の妊娠期間を経て5月〜7月に木の穴や岩の隙間で出産し、一度に産まれるのは1〜2頭です。
産まれたばかりのレッサーパンダの赤ちゃんは体長15cm・体重100〜130g、体毛は灰色で模様はほとんどありません。
とても小さく未熟な状態で産まれますがメスだけで子育てし、約5か月で乳離れするほど成長は早く、成獣と同じ大きさに育つまで1年ほどです。
出生数が一度に1〜2頭と少ないことや非常に未熟な状態で産まれることが、野生での生息数が増えない一因といわれています。
「レッサーパンダ」の分布・生息地
レッサーパンダは、ブータン・中国(四川省、雲南省)・ミャンマー北部・インド(アッサム地方)・ネパールに分布しています。
レッサーパンダの分布域は、最高気温25℃程度で冬は雪に覆われる標高1,500~4,000mの森林です。
2つの亜種それぞれの分布域は次のようになっています。
- シセンレッサーパンダ: 中国(四川省、雲南省)からミャンマー北部
- ネパールレッサーパンダ(ニシレッサーパンダ): インド北東部、ネパール、ブータン
レッサーパンダの生息地は、ヒマラヤ周辺と中国の一部の狭い地域に限られるのです。
「レッサーパンダ」の生息地
レッサーパンダの生息地は、下層にササが茂った広葉樹林や竹林です。
レッサーパンダの生息地には、餌となる十分なタケやササと安心して休息できる樹林が欠かせません。
生息地の広さも重要で、細分化されると繁殖のパートナーを見つけることが難しくなります。
レッサーパンダの存続には、十分な面積の豊かな森林・竹林が必要なのです。
「レッサーパンダ」の生息数
野生におけるレッサーパンダの生息数は正確に分かっていませんが、推定2,500〜1万頭とされています。
内訳は次のとおりですが、全てを合わせても推測で1万頭前後です。
中国: 3~7千頭
インド: 5~6千頭
チベット: 1,400~1,600頭
ネパール: 300頭
ブータン・ミャンマー: 不明
レッサーパンダのIUCNレッドリストのランク「絶滅危惧」は「その動物種の3世代(あるいは10年間)において、生息数が70%減少した」ことに相当し危機的状況といえます。
レッサーパンダの生息数は年々減少しており、しっかりと保護対策を講じなければ20年後には野生から絶滅してしまうと警告する研究者もいるほどです。
世界で飼育されているレッサーパンダの状況は2017年時点で次のようになっています。
シセンレッサーパンダ: 全世界で349頭。日本で59施設・263頭。
ネパールレッサーパンダ: 全世界で612。日本で1施設・10頭。
シセンレッサーパンダの飼育数は日本が世界一であり、飼育・繁殖において重要な役割を担っているといえるでしょう。
レッサーパンダの野生での生息数を回復させることが最重要ですが、動物園での繁殖も「種の保存」の観点から必要なのです。
「レッサーパンダ」が絶滅危惧種となった理由
レッサーパンダの生息数の減少に直接影響するのが密猟や違法取引ですが、生息地である森林環境の悪化も無視できない問題です。
野生のレッサーパンダを増やすために、動物園生まれのレッサーパンダを野生に戻せば良いと考える人もいるかもしれません。
しかし、レッサーパンダが絶滅危惧種となった原因を根本的に解決しなければ生息数の減少は食い止められないでしょう。
以下にレッサーパンダが絶滅危惧種となった理由を解説していきます。
森林破壊による生息地の分断
人口急増によって森林は宅地・農地へと転用され、道路・送電線などの開発や失火による森林火災が原因で、レッサーパンダがくらす森林の減少が進んでいます。
森林が伐採されることで生息に適した環境が減ってしまうことはもちろん、森林が小さなかたまりに分断されることが問題です。
レッサーパンダは餌場・ねぐら・繁殖場所などがそろっていなければ存続できません。
森林の分断が起こると生息に必要な場所を行き来できなくなる上に、他の個体との交流が難しくなり繁殖の成功率が下がってしまいます。
ネパールではレッサーパンダの生息地の70%が保護区外にあり、生息地の森が400か所に細分化されてしまうなど、森林破壊による分断がレッサーパンダの脅威となっているのです。
サステナブルではない畜産業
レッサーパンダの生息地が失われる原因の一つがサステナブルではない牧畜です。
牧畜のために森林が伐採されて小屋や燃料となり、家畜はレッサーパンダの餌である草やササを食べたり踏みつけたりして生息環境を劣化させています。
また、レッサーパンダの生息域周辺で乳製品を好む傾向が進んだことにより、家畜の飼料としてササの需要が急増しました。
持続可能性をかえりみない牧畜による森林伐採と植生破壊が、レッサーパンダの生息環境を奪っているのです。
放し飼いの犬と感染症
家畜の持ち主は天敵から家畜を守るために犬を放し飼いにしており、レッサーパンダも犬に殺されています。
犬からレッサーパンダへ排泄物を通して感染する寄生虫も確認されており、病気の媒介という側面からも犬の放し飼いは問題です。
ジステンパーウイルスは感染力が強く、レッサーパンダが感染した場合は高確率で死に至ります。
犬が放し飼いにされていることが、レッサーパンダの主たる死因となっています。
密猟と違法取引
レッサーパンダは希少種であるため捕獲が禁止されていますが、密猟や違法取引が後を断ちません。
毛皮や尻尾、ペット目的の生きたままの個体が違法に売買されているのが現実です。
ネパールでは野生生物の違法取引の90%は報告されず、誰が違法取引をしているのか、どこに輸出されているのかといった情報がほとんどありません。
生息地の劣化で生息数を減らした野生生物に、さらに追い打ちをかけるのが密猟や違法取引なのです。
「レッサーパンダ」の保護の取り組み
レッサーパンダは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:絶滅危惧)に掲載された希少種です。
希少種保護の国際的な取り決めであるワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で、レッサーパンダは付属書Iに掲載されています。
よって、商業目的のための国際取引は全面的に禁止、学術目的の取引には輸出入国双方の政府が発行する許可証が必要です。
次にレッサーパンダの生息地において実施されている保護の取り組みをご紹介していきます。
植林と森林再生
レッサーパンダの生息環境を改善するためには、分断され細分化してしまった森林の修復が必要です。
植林により森林を回復させ、保護区などの重要な生息地と周辺の森林をつなげる活動が続いています。
その成果として、レッサーパンダのみならず近年姿を消していたクマ・シカ・レオパードなどの野生生物が戻ってきているのは嬉しい事実です。
豊かな森林の回復は、レッサーパンダだけではなく他の野生生物にとっても有益といえます。
市民参加のモニタリング
レッサーパンダの生息地で保護活動をしているRed Panda Network(レッサーパンダネットワーク)はネパール政府と協力して、地域住民によるレッサーパンダの生息数・生息環境のモニタリング調査を実施しています。
地域住民にレッサーパンダ保護技術を身につけてもらうプログラムを通じて、150人の森林保護官が誕生しました。
2007年に16人の森林保護官で始まったモニタリング調査は、現在最大規模のところで100人の森林保護官が調査に参加しています。
地域住民を巻き込んで、レッサーパンダのモニタリング調査を継続している点で画期的です。
密猟対策
Red Panda Networkはレッサーパンダの違法取引を摘発し、地域住民に対してレッサーパンダ保護の必要性を伝えています。
密猟を防ぐ取り組みで活躍しているのが、地域住民から生まれた森林保護官です。
森林保護官は、レッサーパンダの生息地に密猟者が仕掛けた罠を回収し、地域住民にレッサーパンダ保護の大切さを伝え、密猟があればを法的執行機関に通報します。
森林保護官を中心とした地域住民のネットワークがネパール国内に現在12団体あり、罠が60%削減されました。
しかし密猟や違法取引の情報はほとんど表に出ないのが現状で、今後は需要・供給の両側面から戦略的に対策を取っていくとしています。
地域住民の理解と協力
WWF(世界自然保護基金)が実施しているのは、地域住民がレッサーパンダの生息地に与える悪影響を止めるための対策です。
地域住民は燃料を得るために森林を伐採し、現金収入を得るために密猟をしてしまいます。
森林伐採や密猟をしなくても燃料や現金収入を得られるように地域住民に提供しているのが、次のような取り組みです。
- 家畜のフンを材料とした固形燃料を製造し利用・販売
- 旅行者向けのツアーの実施
地域住民の実情を理解して必要な支援をし協力を得ることで、レッサーパンダの生息地の破壊を防ぐことができます。
ザ・ボディショップのキャンペーン
ザ・ボディショップは2016年から対象商品の売り上げの一部を希少種保護のための森林再生に利用するバイオブリッジキャンペーンを始めています。
2018年の保護対象はレッサーパンダで、キャンペーンによる寄付金総額は全体で約1億2千万円にのぼり、日本国内に限ると約30万円でした。
寄付金により、現地で活動する保護団体Red Panda Networkと協力して分断された森林を回復させ、地域住民に対する支援やエコツーリズム研修を実施しています。
ザ・ボディショップのバイオブリッジキャンペーンの狙いの一つは、絶滅危惧種の問題を消費者に知らせることです。
私たちにできること
レッサーパンダを絶滅させないために、生息地の自然環境について多くの人が関心をもち理解と協力が広がっていくことが望まれます。
日本では多くの動物園でレッサーパンダが飼育されており、レッサーパンダの生態や現状について学ぶには恵まれた環境といえるでしょう。
動物園でレッサーパンダを増やすだけではなく、生息地である森を守ることが重要ですが
、インターネットを通じて現地で活動を続ける保護団体に寄付ができます。
レッサーパンダのことを知ることも、レッサーパンダを守るための一歩です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。