「野生のラッコはどこにいる?」
「ラッコは絶滅危惧種なの?」
「ラッコの数が減った理由は?」
ラッコはお腹の上に載せた石に貝を叩きつける独特の習性と、海面に浮かぶ愛くるしい姿で人気の哺乳類です。現在、国内の水族館でラッコの飼育数が減っているニュースが注目を浴びています。
ラッコは、環境省レッドリストで絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:危機)に掲載されている希少種です。
最後まで読んでいただくと、ラッコの特徴・生態・分布域・絶滅危惧種になった理由などについて知ることができますので、ぜひご覧ください。
ラッコとは
ラッコは食肉目イタチ科ラッコ属に分類され、ラッコ属を構成するのは1種のみです。
さらに、生息域により、アラスカラッコ・カリフォルニアラッコ・アジアラッコ(チシマラッコ)の3亜種に分けられます。
アイヌ語でラッコを指す言葉がそのまま種名となっており、アイヌの人々はかつてラッコの毛皮を千島列島と北海道本土の間で貿易品として扱っていました。
英語名sea otter(海のカワウソ)のとおりカワウソによく似た体型で、水温2〜15度の冷たい海域に分布しています。
ラッコの特徴
ラッコは体長1〜1.3m、体重はオスで22〜45kg・メスで15〜32kgで、25〜37cmの尾をもつ小型の哺乳類ですが、イタチ科の中では最大です。
体色は赤褐色・濃褐色・黒と変異が大きく、頭部や喉・胸部は灰色や黄白色で、後ろ足には水かきが発達し、尾は平たく泳ぐときに舵のようにはたらきます。
他の海生哺乳類とは異なり皮下脂肪が少ない代わりに、密に生えた柔らかい体毛で全身が覆われているのが特徴です。
ラッコの体毛は1㎠あたり10万本以上、哺乳類の中では最も密でオットセイの2倍・ミンクの4倍にあたり、全身では8億本以上にのぼります。
ラッコは毛づくろいすることにより皮膚から出た油を体毛にいきわたらせ、体毛が水をはじくようになり毛と毛の間に空気の層ができます。
ラッコは密な体毛が作る空気の層によって、低温の海水から守られているのです。
海水から水分を摂り過剰な塩分を排泄するため、腎臓の大きさは平均的なカワウソ類の2倍となっている点でも、海での生活に適した身体といえます。
ラッコの暮らし
ラッコの主な生活場所は海岸から約1km以内の沿岸部で、岩場があり海藻・海草が豊富な環境です。
繁殖期以外は単独生活ですが、休息時に数十頭から数百頭が集合することもあります。
夜は波のない入江などで海藻につかまって休みますが、人間による妨害のおそれがない地域で生息密度が高い場合には、陸上で休むこともあるとのことです。
昼行性で、清潔と防寒性を保つために頻繁に毛づくろいすることが必要で、幼獣の毛づくろいは母親が行います。
ふつうは水深約20mまで、50〜90秒間潜水することが可能です。
餌を採る以外は海面にぷかぷかと浮きながら、ほとんどの時間を休息と毛づくろいで過ごす暮らしぶりといえます。
ラッコの食べもの
ラッコは肉食で主な餌は貝類・甲殻類・ウニ類などですが、これらの餌が無い時は魚類や海鳥を食べることもあるといわれています。
皮下脂肪が少ないので、体温維持のために毎日体重の2〜3割もの魚介類が必要です。
獲物を前足で捕らえ、硬い獲物は歯や前肢で中身をこじあけて食べるほか、貝類やウニ類を胸部や腹部に乗せた石に叩きつけて割り中身だけを食べます。
ラッコの臼歯は硬い餌を嚙み砕くことに適した扁平で幅広の形です。
食べきれない貝類や獲物を割る際に使う石は、わき腹のたるみをポケットのように使ってしまっておく習性があります。
ラッコは気に入った特定の石を持ち続け、潜る際には「おもし」として使うのです。
動物園などで飼育されているラッコは、自然界に無い道具を使用することもあり、水槽のガラスに貝殻を叩きつける姿も確認されています。
ラッコは硬い貝類・甲殻類・ウニ類を食べるのに適した身体と習性をもち、毎日かなりの量を必要とする大食漢といえるでしょう。
生態系の中のラッコの役割
ラッコは、多くの貝類・甲殻類・ウニ類を食べるため、漁業者から厄介者あつかいされることもあります。
しかし、ウニが増えすぎると海藻を食いつくすこともあり、ラッコが食べることでウニの生息数がコントロールされ海藻・海草が守られているのも事実です。
実際にラッコが激減した海域ではウニによる食害で磯焼けが起こり、魚介類の繁殖に悪影響がでました。
逆にラッコが生息する海域では、ウニによる食害が抑制されて海草の森が守られており、二酸化炭素(温室効果ガス)の吸収量の増加にもつながっています。
さらに、ラッコが動き回ることでアマモなどの海草の有性生殖が促進されることも明らかになりました。
ラッコが生息しなくなった海域と、生息している海域を比べると、ラッコがいるアマモ場の方が生態系が安定し、遺伝子の多様性が高いという研究結果もあります。
ラッコは生態系の中で海藻・海草類の存続を助け、豊かな海のバランスを整える役割も果たしているのです。
ラッコの繁殖
ラッコは一年を通じて繁殖し、交尾・出産・子育ては全て海の上です。
オスは交尾の際、体勢を維持するためにメスの鼻を噛むことが知られており、メスが負う傷は軽いのが普通ですが、稀に悪化し命を落とすケースもあります。
妊娠期間は6〜9ヶ月で1回の出産で生まれるのは1〜2頭です。
メスは腹の上に仔を乗せながら海上で仔育てを行い、オスが子育てに参加することはありません。
生まれた子どもは無防備のまま波間に浮かんで、狩りに出た親の帰りを待つため、ホホジロザメに捕食されてしまう個体が1割ほどいます。
海に浮く姿がかわいらしく人気のラッコですが、天敵に襲われる危険と隣り合わせでもあるのです。
ラッコの分布・生息地
ラッコは、北太平洋の北アメリカ大陸から千島列島の沿岸にかけて生息しており、生息地域によって3亜種に分かれています。
アラスカラッコ | アラスカ~アリューシャン列島~コマンドル諸島 |
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カリフォルニアラッコ | カリフォルニア州中部以北 |
アジアラッコ(チシマラッコ) | 千島列島~カムチャッカ半島東岸 |
分布の北限は北極海で、南限は米国カリフォルニア付近でジャイアントケルプの分布域とほぼ同様です。
現在の生息数は、約12万〜18万頭と見積もられています。
日本では、1980年代から北海道東部で目撃され、1990年代以降は襟裳岬近海・釧路川河口・大黒島 ・納沙布で観察されてきました。
繁殖が確認されているのは、モユルリ島・霧多布岬です。
国内での生息数が増加傾向である一方、定置網や刺網による混獲も増加し、死亡例も発生しています。
ラッコが絶滅危惧種になった原因
ラッコは、1800年代を中心に乱獲で数を減らし、30万頭いたと推定されるラッコの生息数は1900年代初めには2千頭以下にまで減少しています。
ラッコが生息数を減らした主たる要因は毛皮目当ての乱獲で、日本では20世紀初頭には絶滅したと考えられていました。
そのほか、人間の経済活動による海洋汚染や近年の地球温暖化など地球規模の影響も生息数減少の一因です。
ラッコが99%以上も減少し今も危機的状況が続いている理由について、それぞれ解説していきます。
毛皮を目的とした乱獲
ラッコ毛皮は非常に保温性が高い上に、綿毛と呼ばれるほどやわらかく肌触りも良いため、毛皮としてすぐれた機能を持っています。
古くから毛皮として利用され人気も高く、特に1800年代を中心に毛皮目的の狩猟で大量のラッコが捕らえられました。
『シートン動物記』によると、ラッコは本来は海辺で生活し、日光浴をしている群れをごく普通に見られたとのことです。
その頃は人間に対する警戒心も無かったため、瞬く間に狩り尽くされてしまい、現在のような生態になったと記されています。
乱獲によってカナダのブリティッシュコロンビア州、米国ワシントン州およびオレゴン州の個体群は絶滅してしまいました。
日本でも毛皮ブームの際にH・J・スノーらによる乱獲でほぼ絶滅してしまい、明治時代には珍しい動物保護法『臘虎膃肭獣猟獲取締法』(明治45年法律第21号)が施行されています。
北極海の冷たい海域でも生息できるラッコの毛皮の特性が裏目に出て、絶滅の危機に追いやられてしまったのです。
生息環境の変化
地球温暖化による気候変動が間接的にラッコにも影響を及ぼしています。
地球温暖化で海流が変化し餌動物の量が変動することにより、餌不足で幼獣が餓死したり、餌資源が減ったシャチがラッコを襲うということも起きているのです。
また、近年カリフォルニア周辺では赤潮が頻発し、生息環境に大きな影響を及ぼしています。
赤潮はウニの成長を妨げられるともいわれており、ラッコだけではなく多くの海獣や海鳥を危機的状況においやる要因です。
このように、気候変動などによる生息地の環境変化がラッコを圧迫しています。
タンカー事故などの影響
タンカー事故などで流出する原油もラッコにとって脅威です。
ラッコは、他の鰭脚類(ききゃくるい)に比べて体が小さく皮下脂肪が少ないため、毛皮に原油が付着すると保温効果を失い体温が奪われ凍死してしまいます。
体毛が濡れることで浮力が減少し、溺れてしまうことさえあるようです。
1989年のプリンス・ウィリアムス湾のタンカー座礁事故では、流出した原油により少なくとも1,016頭のラッコが死亡しました。
ラッコの保護の取り組み
ラッコは絶滅をまぬがれたものの、依然として過去の生息数をはるかに下回っている状況で、保護の取り組みが継続中です。
国内に生息する野生のラッコは、鳥獣保護法により捕獲が禁止されています。
また、ラッコは希少種保護の国際的な取り決めである「ワシントン条約」(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で付属書Ⅱの掲載種です。
したがって、商業目的のための国際取引は可能ですが、輸出国政府の発行する輸出許可証が必要となります。
ラッコの生息地である米国では、1998年にラッコの輸出禁止の方針が表明されました。
法的保護の他、民間でも積極的な保護活動が実施されているのでご紹介します。
ラッコの再導入
ラッコの生息に適した海域では、ラッコの再導入も実施されています。
ラッコの再導入には、科学的な知見だけではなく、地域の利害関係者の理解と協力が必要です。
米国西海岸では戦略的取組として、地方自治体・漁業者・企業・保護団体がパートナーシップを築き、ラッコの個体数回復を共通目標とすることを掲げています。
過去にラッコが再導入されたオレゴン州では定着に至りませんでしたが、南カリフォルニアでは生息数の増加につながっています。
傷ついたラッコの保護
Monterey Bay Aquarium(モントレーベイ水族館)では 、1980年から親を失ったラッコの子どもを救出、リハビリして野生に戻してきました。
この取り組みにより放たれた子ラッコと子孫が、モントレー湾の重要な生息地で2002年〜16年に増加した数の半分以上を占めるとの研究結果が示されています。
Aquarium of Pacific(パシフィック水族館)も同様に、保護された子ラッコをリハビリし、代理母の助けを借りながら育て野生に戻す取り組みを開始しました。
このプログラムは、野生の孤児ラッコの生存の可能性を高めるのに加え、カリフォルニア沖の生物多様性の回復にも役立ちます。
2つの水族館が提携することでさらに多くのラッコを救い、カリフォルニア沿岸の海洋生態系がもつ機能の回復も期待できるとのことです。
さらに、Aquarium of Pacificではラッコの保全について水族館来館者に対する情報発信にも力を入れています。
日本でラッコが見られる場所
長らく日本でラッコを見られる場所といえば水族館でしたが、水族館で飼育されるラッコの数は減少傾向です。
しかし、国内には野生のラッコが生息し観察できる場所もわずかながらあります。
むしろ今後は、野生の生息地が貴重な観察地となっていくでしょう。
ここでは水族館のラッコが減少してしまった経緯と、国内生息地についてご紹介します。
日本の水族館での飼育状況
水族館はラッコの生態を間近に観察するのに最適ですが、残された時間は限られています。
1980年代から日本では水族館での飼育ブームが起き、最盛期の1994年には28館で122頭のラッコが飼育されていました。
その後、1998年にはアメリカ合衆国がラッコの輸出禁止の方針を打ち出し、新規でラッコを導入することはできなくなっています。
寿命で亡くなるラッコを補うためには繁殖で増やす以外の方法はありませんが、飼育下の数が少ない中での繁殖は非常に困難です。
2022年12月時点でラッコの飼育数は、マリンワールド海の中道で1頭、鳥羽水族館で2頭の合わせて2館3頭となってしまいました。
将来的には、水族館でのラッコの展示はなくなると考えられます。
野生の姿が見られる場所
日本では、1980年代から北海道東部で目撃され、1990年代以降は襟裳岬近海・釧路川河口・大黒島 ・納沙布・モユルリ島・霧多布などで観察されてきました。
特に北海道浜中町の霧多布岬周辺は、野生のラッコが年間を通して見られ繁殖もしており、陸上から観察できるため注目を集めています。
ラッコ目当ての観光客やカメラマンも増えてきましたが、ラッコの生息を妨害するような好ましくない行為もあるとのことです。
今後、ラッコを脅かさずに楽しんでもらうため、浜中町ではガイドラインを作成し看板やリーフレットで呼びかけています。
霧多布岬でラッコを観察できる機会がある場合には、ラッコが安心して生息できるよう、野生生物との距離を守るなどマナーを守りましょう。
まとめ
ここまで、ラッコの特徴・生態・分布域・生息地・絶滅危惧種になった原因などについて、解説してきました。
ラッコがすむアマモ場など海中の森には、生物どうしが互いに影響を受け合いながら多様性の高い豊かな生態系が築かれています。
ラッコは豊かな海のシンボルであり、ラッコを守ることは貴重な自然環境を守ることにつながるのです。
ラッコが生きていける自然環境が少しでも多く維持されることを願ってやみません。
私たちがラッコのために何ができるかと考えた時、ラッコの保護活動をしている団体に寄付
をしたり保護活動に参加したりすることが手段としてあげられます。
代表的な団体は次のとおりです。
ラッコに関心をもち情報を得ることは、ラッコを守るための一歩といえます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。