カリブモンクアザラシはモンクアザラシ属に属するアザラシです。
他の現存するアザラシとは同種類ですが、更にその定義が細分化されたことにより、分類学上3種類のモンクアザラシが地球上に生息したことになります。
残念ながら“カリブモンクアザラシ”は1952年の目撃を最後にその姿を消します。
それから実に15年後の1967年に絶滅種として認知されました。
正式に絶滅種として公的認定されたのは実に51年後の2008年となります。
幸いにも他の“ハワイモンクアザラシ”と“チチュウカイモンクアザラシ”は現存しています。
ですが総個体数はそれぞれ1000頭・600頭前後と予断を許さない状況です。
「カリブモンクアザラシ」とは
正式にはアザラシ科モンクアザラシ亜科モンクアザラシ属に分類されるアザラシの一種です。大西洋アザラシとも呼ばれていました。
最盛期の個体数は33万8000頭です。体長は2mほどで体重は平均160kg。大きい個体は悠に200kgを超えていました。
背中は黒褐色ですが腹部はかなり明るい色合いをしています。
泳ぎは非常にうまく、水中での捕獲は困難です。
ただし一旦陸上に上がると、その動きは非常に鈍くなります。
アザラシの仲間ではかなり珍しい一夫一妻制を取り、他のアザラシの様なハーレムは一切作りません。
このためオス同士の争いは全くなく、群れの中でペア同士平穏に暮らしていました。
「カリブモンクアザラシ」の分布・生息地
名前の通りカリブ海を中心に、メキシコ湾、西大西洋沿岸部に広く分布していました。
温暖な珊瑚礁の浅瀬を好み、20〜40匹程度の群れを形成し集団生活を営んでいたそうです。
100匹を越す大きな群れも確認されています。
自然界では海中のイタチザメなどのサメ類が主な天敵でした。そのため陸上は彼らにとって最も安全な場所だったのです。
温和な性格も合わさり人間に対する警戒心は皆無でした。
「カリブモンクアザラシ」の絶滅した原因
歴史上カリブモンクアザラシの最初の発見者はコロンブスとされています。
1494年コロンブス2回目の航海時の出来事でした。
大航海時代の到来はカリブモンクアザラシの受難の歴史でもあります。
彼らは陸上の動きが非常に鈍く、天敵がいなかったため初めて見る人間を一切怖がりませんでした。
「鈍器でも簡単に狩る事ができた」と当時の航海日誌に記録されています。
彼らの絶滅の理由は2つです。
船乗りや移民による常軌を逸した乱獲
その豊富な肉・毛皮・油を求め、船乗りたちは彼らを次々に殺戮します。
1600年代終盤に入ると砂糖農家の機械油としての需要が増加し、その乱獲に拍車がかかります。
砂糖農家は独自の狩猟隊を結成し、1日に実に100頭以上もの狩猟を行っています。
1700年代に入ると灯油の原料として漁業者の捕獲も加わります。
観光業の発展による開発
特にフロリダビーチは綺麗な珊瑚礁も広がり、人気の高い観光地です。
開発事業により住処を失ったカリブモンクアザラシは、大乱獲も伴い急速にその姿を消します。
1800年代になるとその姿はほとんど見られず、1850年に商用捕獲が禁じられますが遅きに失しました。
1886年メキシコ地理調査の一環としてアザラシの科学的調査が行われます。その時捕獲されたモンクアザラシの標本は、現在も大英自然史博物館とケンブリッジ動物学博物館に残っています。
ジャマイカとニカラグア間の海域で1952年に目撃された個体が最後の生き残りとされています。
「カリブモンクアザラシ」の生き残りの可能性
モンクアザラシの仲間は幸いにも、少数ながら“チチュウカイモンクアザラシ”と“ハワイモンクアザラシ”が現存しています。
“カリブモンクアザラシ”も先に挙げたイギリス以外にも、多くの博物館にその標本が保管されています。
2010年代に入りカリブモンクアザラシについて再調査がされました。
目的はその近縁2種と標本を用いた復活プロジェクトのためです。
ところがそこで驚くべき事実が判明します。
調査隊はその頭蓋骨の形状やDNA解析から糸口を探します。
しかしその調査からチチュウカイモンクアザラシとハワイ・カリブモンクアザラシの2種が全くの遠縁種という事が判明します。
この調査からカリブモンクアザラシの復活プロジェクトがより困難である事実が突きつけられてしまいます。
これまでモンクアザラシの保護に携わる科学者は、仮に現存2種のどちらかが絶滅しても種の系統は保たれると安心しきっていました。
現実には、ハワイモンクアザラシがモンクアザラシ属最後の生き残りという訳です
また、カリブモンクアザラシの目撃情報も69年間一度もなく、野生下での生き残りの可能性はゼロに等しいでしょう。
ですが近縁種であるハワイモンクアザラシは種を維持できる個体数、約1000頭が現存しています。
かなりの難関はありますが、これから更に研究を続け科学の発展を待ちます。その上で状態の良いカリブモンクアザラシの標本が見つかれば?
クローン羊ドリーで成功した「核移植」が成功するかもしれません。
現状はカリブモンクアザラシの“いとこ”とも言えるハワイモンクアザラシを守り抜くこと。
この事が復活のための第一歩と言えるでしょう。