「ポリネシアマイマイ」とは
「ポリネシアマイマイ」とは、軟体動物の一種で、「陸生巻貝」というグループに含まれている小型のカタツムリの仲間です。
ポリネシアマイマイには多くの種類が知られており、その貝殻の大きさは1〜2cm程で、日本で見られる一般的なカタツムリと違って長めの形をしており、それは海に生息しているバイ貝やホラ貝に似ています。
しかし、ポリネシアマイマイの貝殻は表面が滑らかで色彩も白色やクリーム色、ピンクっぽい色から薄桃色に赤みがかった茶色のラインが入る色とりどりの美しい色をしています。
ポリネシアマイマイの美しい貝殻は、かつては島民達の装飾品や儀式の際に身に付ける神聖な道具とされていました。
食性は草食性で、木の枝や地面に生えた葉や作物の葉、腐食した植物を食べていたそうです。
繁殖形態は産卵ですが、カタツムリの仲間なので「雌雄同体」であり、お互いに精子が詰まったカプセルを贈り合って受精卵を産卵すると考えられます。
ポリネシアマイマイを含むカタツムリの仲間は移動距離も短く、生息地や分布も限定的な種類が多いため「絶滅の危機に瀕しやすい生物」として知られています。
「ポリネシアマイマイ」の分布・生息地
南太平洋のフランス領・ポリネシアの島々に分布しており、その島々にはタヒチ島やソシエテ島等があります。
島々の森林地帯に生息していたとされ、木の幹や枝に生えた葉、背の低い植物の上を這い、かつては葉の裏にたくさんのポリネシアマイマイ達がひしめいていた様子も写真に納められています。
「ポリネシアマイマイ」の絶滅した原因
ポリネシアマイマイが絶滅に追い込まれた原因はいくつかあり、生息地である島々に人間が入植した事による森林等の環境破壊もその一つとされています。
しかし、一番の原因は人間と共に島に移入してきた外来生物でした。
島々に人間達が入植し、土地の開拓をしたり作物を育てていた頃、フランス料理「エスカルゴ」に使う食材として輸入した「アフリカマイマイ」が数匹逃げ出し、島内で大量に殖えてしまったそうです。
このアフリカマイマイは繁殖力が強いだけでなく寄生虫の宿主となったり、旺盛な食欲で作物を喰い荒らしてしまいました。
駆除をするにも数が多過ぎて手が回らないため、入植者達は意見を出し合い「生物的防除」を行う事を決めます。
「生物的防除」とは簡単に説明すると、問題となる生物の天敵を利用する事で駆除する方法です。アフリカでは過去に殖えすぎたホテイアオイの駆除にゾウムシの仲間を移入する事で駆除に成功しました。
入植者達は殖えすぎたアフリカマイマイを駆除するために、1977年、マイマイを捕食する肉食性のマイマイ「ヤマヒタチオビガイ」を島に移入したのです。
しかし、その期待は大きく外れ、取り返しのつかない事件を起こす事になります。
このヤマヒタチオビガイは確かにマイマイを捕食するのですが、世界最大のマイマイであり、移動速度も早いアフリカマイマイを捕食せず、元々島に生息していた小型で移動速度も遅く、移動範囲も狭いポリネシアマイマイ達を襲い始めました。
ヤマヒタチオビガイからすれば、食べ応えはありそうだけど捕まえるのが面倒なアフリカマイマイより、ポリネシアマイマイの方が捕獲が楽だったのです。
その結果、かつてはソシエテ島に61種類もいたポリネシアマイマイ達は次々と姿を消してしまい、1970〜1990年の間に殆どの種類が貝殻だけを残して絶滅してしまいました。
2000〜2001年には、1990年代にかろうじて確認できたポリネシアマイマイ達の生存の調査に乗り出しましたが、タヒチ島以外の個体郡の生息を確認する事はできなかったそうです。
ヤマヒタチオビガイを移入した事によるポリネシアマイマイ達の大量絶滅は、今でも生物的防除の失敗例として語られています。
「ポリネシアマイマイ」の生き残りの可能性
対アフリカマイマイのために移入されたヤマヒタチオビガイによって絶滅に追いやられてしまったポリネシアマイマイですが、全種類が絶滅した訳ではありません。
タヒチ島、モーレア島では5種類ずつ生き延びており、生き残ったポリネシアマイマイ達はロンドン動物学会による「ポリネシアマイマイ保全プログラム」によって繁殖され、故郷の島々に帰されています。
このプログラムは20数年前に無脊椎動物研究者のデイブ・クラーク氏が率いる研究チームがかろうじて生き残っていたポリネシアマイマイの保護に成功した事によって発足しました。
また、島々に生息していたヤマヒタチオビガイを地道に駆除した事で、ポリネシアマイマイ達の本来の生息環境が戻ってきたため島内に戻ってきたポリネシアマイマイ達が被害を受ける事もなくなってきたそうです。
他にも喜ばしいニュースがあり、博物館の標本から採取されたポリネシアマイマイのミトコンドリアDNAをモーレア島等で採取されたポリネシアマイマイ達のミトコンドリアDNAと比較すると、いくつかの分類郡がまだ生き残っている可能性がある事が分かりました。
彼らは小さな身体で精一杯生きていたのです。
移入によって絶滅寸前にまで追い詰められてしまったポリネシアマイマイ達が、再び元々生息していた島々で見られる日が来るのが待ち遠しくもあり、同じ過ちを繰り返さないように彼らを見守っていけたらと思います。